Medical Topics
医療トピックス

健康講座アーカイブス

医療トピックス

健康講座アーカイブス

聚楽内科クリニック院長先生の
健康講座

第11回:

健康講話 禁煙のすすめ

    開催日:
    2019年1月15日
    場所:
    株式会社DNS
    講師:
    聚楽内科クリニック院長 武本重毅

 喫煙は本人だけでなく周囲の方々の健康も脅かします。このため多くの人が使う施設での喫煙を規制する改正健康増進法すなわち受動喫煙防止法が成立し、2020年4月より全面施行となります。そこで今回は喫煙に関する正しい知識と禁煙に取り組むメリットをご紹介しましょう。

 まず受動喫煙防止のための4つの常識を覚えてください(WHO受動喫煙防止のための政策勧告)。

  • 屋内の喫煙室、空気清浄機、換気ファンは、全く意味がありません。
  • 屋内を禁煙にすると受動喫煙の病気が減るので、医療費並びに保険コストを節約することができます。
  • 屋内を禁煙にすると労働生産性が3%向上します。
  • 屋内を全面禁煙にすることは無料でできて、これにより喫煙の害に関する全ての問題を解決することができます。

 喫煙は害です。タバコの煙には4000種類以上の化学物質、そして約200種類の有害物質と60種類の発がん性物質が含まれています。注目すべきはその有害物質が、喫煙者本人が肺へ吸い込む主流煙よりも周りに撒き散らす副流煙の方に多く含まれていることです。さらに喫煙していないときでも、タバコを吸った屋内の絨毯や壁紙に付着・残留した煙の成分が、後に揮発・浮遊して起こる、サードハンド・スモークの害が提唱されています。喫煙者はもちろん、非喫煙者でも受動喫煙を受けることによって肺は黒く変色し、その組織構造は破壊されます。健康寿命が10年短く、病気の期間が5年長く、寿命が7年短くなります。有害物質は気体として肺の奥へと入っていくだけでなく、口腔粘膜に付着し、唾液に溶け込み食道・胃へと流れ、血液中に取り込まれ全身を回り、尿の中に出てきます。このため肺がんだけでなく、喉頭がん、食道がん、口腔がん、尿路系のがんができます。化学物質により肺の組織が破壊され、呼吸機能は非喫煙者に比べて急速に衰えていきます。軽度の肺気腫であればまだ喫煙者自身に症状はありませんが、中等度になれば咳やたんの症状が、そして高度の肺気腫なるとすぐに息切れを感じてしまうようになります。喫煙は動脈硬化の5大原因の1つです。血圧が上がり、耐糖能は低下して、糖尿病の場合に心筋梗塞のリスクは3倍になります。くも膜下出血のリスクが3〜4倍になり、脳梗塞脳出血も増えます。慢性閉塞性肺疾患は、ほとんどすべてが喫煙者です。胃潰瘍の原因でもあり、その代表であるピロリ菌を除菌しても治らなければ禁煙をお薦めします。妊娠しても胎児の発育障害があり、閉経が早く、不妊が増えます。骨折しやすくなります。うつ病が2倍になり、認知症になりやすくなります。皮膚の老化が進み、シワが増えて、化粧のノリが悪くなります。

 では、禁煙すると、いつ、どのような効果が現れるのでしょう。練炭自殺や事故死の原因で喫煙有害物質の1つである一酸化炭素は、赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白との結合力が強く、酸素や二酸化炭素がヘモグロビンに結合するのを妨げます。このため血中の一酸化炭素濃度が高くなると、組織や生命の維持に必要な酸素・二酸化炭素のガス交換が障害されます。この血液中の一酸化炭素濃度は、禁煙後12時間で正常に戻ります。そして禁煙2週間〜3ヶ月で心臓・肺の機能が回復し、1〜9ヵ月の間に痰や息切れが改善します。肺がんのリスクは10年後に半減し20年後には非喫煙者と同じレベルまで下がります。心臓血管疾患の死亡リスクは禁煙10年以上で非喫煙者と同じレベルまで下がります。脳卒中発症率は5年で非喫煙者と同じレベルになります。禁煙すると一時的に体重が増加しますがこれも5年以上経てば非喫煙時の健康な身体まで改善していきます。タバコの煙の中には200種類以上の有害物質が入っているわけですから、喫煙中はその有害物質を摂取することにより痩せてしまっているという考え方もできます。そのほか禁煙すると、味覚が鋭くなり、自然の緑と花の香りがわかるようになります。体が臭くなくなります。ストレスがなくなります。タバコの火を消したかどうかを心配する必要がなくなります。喫煙できる場所を探し回らなくてもよくなります。経済的に楽になります。家を汚していたことに気づきます。そして何よりも、周囲の人々への受動喫煙の害をなくすことができます。

 最近では医療機関で禁煙治療が健康保険を使って受けられます。実際に禁煙すると多くの方が様々な体調の変化を感じますので、対処法とともに知っておきましょう。例えばイライラ感、欲求不満、怒り、深い、不安、抑うつ、落ち着きのなさ、物事に集中できない、不眠、食欲亢進と体重増加、心拍の減少などが起こります。対処法について質問があれば聚楽内科クリニックの方にご相談ください。

 タバコは嗜好品ではありません。例えば嗜好品であるコーヒーを夜飲みたいと思った時に手元になかったら、すぐにそれを買いにコンビニに走るなどという事はありません。翌日お店に行ったついでに購入しようと思います。そして職場で禁止されたとしても受け入れるでしょう。ところがタバコの場合、夜間に吸おうと思って1本もないことに気づくと、夜間であっても買いに走ります。職場で喫煙を禁止されたら反対します。自分でその欲求をコントロールできなくなるからです(ニコチン依存症)。タバコを吸うと、ニコチンが数秒で脳に達し、快感を生じさせる物質、ドーパミンを放出させます。ドーパミンが放出すると喫煙者は快感を味わいますが、やがて血液中からニコチンの量が減ります。するとドーパミンも減少し、それを補うため、次の一服をして快感を味わいたいと思います。このようにして1本吸い終わってもそれほど時間を開けずに次の1本が欲しくなる悪循環に陥るのです。タバコを吸うと、ニコチンが切れるために生じる不安などの症状が消えるため、ストレスが解消されると誤解するわけです。

 まず喫煙のきっかけとなる環境改善しましょう。タバコ、ライターなどを処分します。灰皿を置かないようにします。タバコの煙や喫煙者に近寄らないようにします。タバコが買える場所に近づかないようにしましょう。次に喫煙と結びつく生活パターンを変えましょう。食後一服するのではなく、早めに席を立ち、歯を磨きましょう。飲酒を控えましょう。お酒の席でタバコを吸いたくなる人が多いようですが、飲酒は喫煙有害物質の体内吸収を促進させます。また禁煙すると体がそれまでの障害から回復する過程で休息を欲して眠くなります。その期間はできるだけ眠りを多くとるようにしましょう。タバコを吸いたくなったら、喫煙の代わりに他の行動を実行しましょう。例えば深呼吸、水・氷・お茶を飲む、歯を磨く、散歩・体操・掃除などで体を動かす、糖分の少ないガムや干し昆布などを口にする、といった方法です。

 次に節煙に関する正しい情報をいくつかご紹介します。最近ニコチン表示量が1mg以下の軽いタバコをする方が増えています。これらのニコチン量はタバコ葉の量を調整しているわけではありません。皆さんご存知でしょうか、タバコのフィルターに開いているミシン目の数により調整されていることを。軽い表示のものほど穴の数が多いのです。つまり穴から入る空気で薄めるわけですが、つい肺の奥まで深く吸い込んでしまいます。このためニコチン量の少ない軽いタバコを吸った方が、血液中の一酸化炭素濃度が高くなり、前述した一酸化炭素の結合したヘモグロビンが増加しているという報告があります。ではタバコの本数を減らすと、どうなるのでしょう。本数を減らすと1本1本を大切に吸うので、逆に節煙後の方が血中ニコチン濃度の上昇を認めました。今流行の電子タバコなど禁煙補助製品は、実は禁煙の役に立ちません。禁煙に有効であるという医学的な根拠がありませんし、一部の電子タバコからはニコチンや有害物質が検出されました。そして口にくわえて吸う癖が取れず結局は実際のタバコ喫煙に戻りやすいのです。

 そして分煙についてですが、どれくらい本当のことをご存知でしょうか。タバコの煙は、ドアを閉めていても、換気が施されていても、喫煙場所から拡散します。したがって分離または換気した喫煙場所を作っても、非喫煙者を保護することはできません。100%完全禁煙の環境だけが、受動喫煙の防止に有効です。さらに空気清浄機ではタバコ煙の粒子状成分しか除去できません。ガス状の物質は未処理のまま空気中に再放出されます。つまり有害物質は9割以上、空気清浄機を素通りしてしまいます。

 アメリカ合衆国のモンタナ州ヘレナ地区では、公共の場での国内喫煙を法律で禁止したところ、つまり受動喫煙防止法の結果、心筋梗塞による入院件数が40%減少しました。またカナダのトロントでは禁煙法により公共の場や職場に加えてレストランでの禁煙を実施した結果、心血管疾患による入院が39%減り、呼吸器疾患による入院が33%減りました。

 私は20年以上前に喫煙係数が400を超えましたので禁煙しました。喫煙係数というのは、(1日のタバコの本数)×(喫煙した年)で計算します。私が学生の頃は喫煙係数400を超えてはいけないと習ったのですが、最近では200を超えないように指導するようです。禁煙して20年経過し全ての疾患リスクを非喫煙者と同じレベルにまで下げることができました。そして何よりも周りの家族、友人たちを受動喫煙の害から救うことができました。

 禁煙は裏切りません!みなさん禁煙しましょう。

※この記事は熊本の株式会社DNSにて幹部ならびにdocomo支店長の皆さまの前でおこないました健康講話の内容をまとめたものです。