症状のない抗生剤が効かないESBL産生菌尿路感染高齢者への対応
「無症候性の尿路感染者(asymptomatic bacteriuria:ASB)」で、かつESBL産生菌が検出されている高齢者の場合の対応について、医療的観点から以下にまとめます。
【無症候性細菌尿 × ESBL産生菌】の対応方針
◆ 1. 原則として抗菌薬治療は 不要
• 発熱・排尿痛・頻尿・腰痛などの症状がなければ、
たとえESBL産生菌が尿培養から検出されても、治療(抗菌薬投与)は原則 行わない。
• ESBL産生菌が存在していても、症状がなければ“定着”と判断されます。
◆ 2. なぜ治療しないのか?
「無症候性の尿路感染者(asymptomatic bacteriuria:ASB)」で、かつESBL産生菌が検出されている高齢者の場合の対応について、医療的観点から以下にまとめます。
理由①:耐性菌の温床になる
解説①:抗菌薬を使うことで腸内・尿路にさらなる多剤耐性菌を選択・増殖させる
理由②:再発率が下がらない
解説②:無症候性細菌尿に対する治療は、将来的なUTI再発や予後の改善につながらない
理由③:副作用・医療費増加のリスク
解説③:高齢者は抗菌薬の副作用(下痢・腎障害・C. difficile感染症など)を起こしやすい
◆ 3. 治療が例外的に必要となるケース
状況①:泌尿器手術の予定がある場合(特に出血を伴う)
対応①:術前に抗菌薬投与(感受性に基づく)
状況②:妊娠中の女性
対応②:胎児への影響を防ぐため、治療対象
状況③:重度の免疫抑制状態(例:臓器移植後など)
対応③:状況に応じて治療を検討するが慎重に
状況④:明らかな症状があとから出現した場合
対応④:その時点でUTIとして対応する
※高齢者施設入所者の場合、「認知症によって症状をうまく訴えられないこと」もあるため、行動変化・食欲低下・せん妄なども観察ポイントになります。
【施設での対応ポイント】
• 経過観察(体温・意識・バイタル・排尿状況などのモニタリング)
• 感染対策は継続(ESBLは接触感染リスクがあるため、手指衛生と物品管理は重要)
標準予防策(Standard Precaution)の徹底
• 手指衛生(アルコール or 石けん・流水)
• 個人防護具(手袋、必要に応じてエプロン)
接触感染対策(Contact Precaution)
• 排泄物・尿への接触を避ける工夫
• トイレ・ポータブルトイレ使用後の清拭・消毒
• 共有物品(体温計、尿器、オムツ交換用具など)の個別化または使用後の徹底した消毒
• 他入所者への過剰な隔離は不要(標準予防策と接触感染対策で十分)