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院長日記

老化に伴う下垂体機能の低下(加齢性下垂体機能低下症)

武本 重毅

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【概要】
下垂体は、脳の下部に位置するホルモン分泌の中枢で、全身の内分泌臓器(甲状腺、副腎、生殖腺など)をコントロールしています。加齢に伴って、この下垂体のホルモン分泌機能も徐々に変化します。

【加齢と下垂体ホルモンの変化】
ホルモン名        老化による主な変化 → 臨床的影響
成長ホルモン(GH

著明に低下 → 筋肉量低下、脂肪蓄積、骨量減少

性腺刺激ホルモン(LHFSH

上昇(性腺機能低下による負のフィードバック減少) → 閉経、男性更年期障害

甲状腺刺激ホルモン(TSH

やや変動(一般には変化少ない) → 高齢者では甲状腺機能低下の見逃しに注意

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH

軽度低下 → コルチゾール反応の鈍化、ストレス耐性低下

バソプレシン(ADH

上昇傾向 → 夜間頻尿、低ナトリウム血症のリスク

プロラクチン(PRL

わずかに上昇する場合あり → 特に女性での乳汁分泌や無月経に関連する場合も

【臨床的な重要ポイント】
1. 成長ホルモンの低下:加齢性GH欠乏症
• 筋力・筋肉量の低下、内臓脂肪の増加、QOL低下
• 「老化」の外見的・内面的変化に深く関与
• ミトコンドリア活性低下とも関連
2. 性ホルモン分泌の変化
• 男性では加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)として疲労感、性欲減退、うつ傾向など
• 女性では閉経後の骨粗鬆症、脂質異常などに関係
3. ストレス応答の変化
• ACTHやコルチゾール反応の低下により、感染症や手術時の耐性が低下

【対処法・アプローチ】
• ホルモン補充療法(HRT):特に性ホルモン補充が一般的。GH補充療法は慎重な適応が必要。
• ライフスタイル改善:睡眠・栄養・運動による視床下部-下垂体-末梢臓器系の調整
• ミトコンドリア活性化アプローチ(例:5-ALA、NMN、抗酸化物質など)

【まとめ】
老化に伴う下垂体機能の変化は、全身の恒常性・代謝バランスに多大な影響を及ぼします。特に「見た目の老化」や「体力・回復力の低下」の背景には、成長ホルモンや性ホルモンの減少が密接に関係しています。適切なホルモン評価と包括的な抗加齢医療が重要です。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。