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院長日記

老化による甲状腺機能低下(加齢性甲状腺機能低下症)

武本 重毅

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【1. 概要】
甲状腺は首の前側にあるホルモン分泌腺で、新陳代謝・体温調節・心機能・神経活動などを調節する「エネルギーの指令塔」のような役割を果たします。

加齢に伴い、この甲状腺機能が徐々に低下し、症状が「老化現象」と重なって見過ごされがちです。

【2. 加齢による主な変化】
甲状腺ホルモン(T3, T4)

やや低下

特にT3(活性型)が低下しやすい

TSH(甲状腺刺激ホルモン)

高齢者では正常範囲でも高め傾向

潜在性甲状腺機能低下症が多い

【3. 一般的な甲状腺機能低下症】
高齢者に特徴的な症状
倦怠感・寒がり → 活動性の低下、元気がない
むくみ・皮膚乾燥 → 顔貌の変化(「むくんだような顔」)
便秘 → 食欲低下と相まって低栄養に
動作が遅い → 認知症様症状として誤診されることも
脈が遅くなる → 心不全や不整脈のリスク増加

【4. よく見られる病型】
● 潜在性甲状腺機能低下症(Subclinical Hypothyroidism)
• TSHは軽度上昇、T3/T4は正常
• 自覚症状がほとんどないが、心血管疾患リスクやうつ症状に関係
• 高齢者では無症候でも経過観察が基本だが、症状や背景疾患に応じて治療を検討

【5. 老化との関連】
• ミトコンドリア代謝低下:甲状腺ホルモンはミトコンドリアの代謝を刺激 → 機能低下で「エネルギー不足」状態に
• サルコペニア(筋肉減少)やフレイルの進行に拍車
• うつ症状・認知症状を悪化させることも

【6. 治療とケアのポイント】
• TSH・FT3・FT4の定期的なモニタリング
• 症状に応じた慎重なホルモン補充療法(チラーヂン)
• 栄養、運動、睡眠と合わせて「低代謝状態」をトータルで整える

【まとめ】
高齢者では、甲状腺機能の低下が「年のせい」と誤解され、見逃されやすくなります。しかし、エネルギー代謝・筋肉・精神状態・心臓機能など全身に影響を及ぼすため、早期発見と対応が大切です。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。