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院長日記

輸血用血液製剤の貯蔵法と、血液製剤を受け取ってから輸血開始までに注意すること

武本 重毅

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1. 輸血用血液製剤の貯蔵法
赤血球製剤(赤血球濃厚液、RCC-LR)
保存 2~6℃
有効期間 採血後21日間

血小板製剤(照射濃厚血小板、PC-LR)
保存 20~24℃で振とう
有効期間 採血後4日間

血漿製剤(新鮮凍結血漿、FFP)
保存 -20℃以下
有効期間 採血後1年間

2. 血液製剤を受け取ってから輸血開始までに注意すること
赤血球製剤(赤血球濃厚液、RCC-LR)
① 溶血・変色・凝固など外見上に異常を認めた場合は使用しない。
② 輸血による移植片対宿主病(GVHD)を予防する目的で、15Gy以上50Gy以下の放射線が照射されていることを確認する。
③ 自記温度記録計と警報装置が付いた輸血用血液専用の保冷庫で、2~6℃で冷蔵保存する。凍結状態(冷凍庫)や室温放置により溶血が起こる可能性があるので、貯蔵時の温度管理は適正に行う。
④ 保冷剤を入れて運搬し、製剤がその保冷剤に直接触れないようにする。
⑤ 病棟あるいは手術室に持ち帰った後、患者の状態が急変したり、出血量が少量であったりして輸血がキャンセルになる場合があるため、それぞれの部署に②に記述した保冷庫にて保存することができれば貴重な血液製剤を他の患者に使用することが可能となる。
⑥ 強い力で加圧・吸引すると溶血することがある。
⑦ 赤血球製剤は温度が上昇することにより赤血球の代謝が活発となり、酸素活性の上昇に伴ってATPの消費が増加し赤血球の変形をきたす。
⑧ 次の場合には37℃を超えない範囲で血液を加温して輸血する。
100mL/分を超える急速輸血、30分以上にわたる50mL/分を超える成人の急速輸血、心肺バイパス術の復温期における輸血、新生児の交換輸血、15mL/kg/時を超える小児の輸血、重症寒冷自己免疫性溶血性貧血患者への輸血
⑨ 他薬剤との混注:輸血用血液製剤は単独投与が原則なので他薬剤との混注は避ける。混注すると薬剤の効果が得られなくなったり、配合変化の原因となる。特にブドウ糖溶液やカルシウムイオンを含む乳酸加リンゲル液、またはカルシウム剤などとの混注は避ける。カルシウムイオンと血液と混合すると、凝固が起こり、フィブリンが析出する。またブドウ糖溶液と血液を混合すると、赤血球が凝集したり、赤血球の膨化による溶血が起こる。やむを得ず同一ラインで輸血を行う場合には、輸血前後に生理食塩水を用いてラインをフラッシュする。

血小板製剤(照射濃厚血小板、PC-LR)
① 凝固など外観上に異常を認めた場合は使用しない。
② 輸血による移植片対宿主病(GVHD)を予防する目的で、15Gy以上50Gy以下の放射線が照射されていることを確認する。
③ 血小板製剤を保存する場合には、血小板振とう器を用いて20~24℃でゆるやかに水平振とうする。
④ 血小板は、酸素供給量が十分な状況では好気的解糖によりエネルギーを得ているが、酸素が不足すると嫌気的解糖が進み、採血バッグ内に乳酸が蓄積する。乳酸産生がある域を超えると血漿pHが低下し、血小板機能に大きな影響を与え、輸血効果が低下する。
⑤ 濃厚血小板を振とう保存することにより、血小板の周りの乳酸は拡散し、また採血バッグを通してガス交換が促進されるので、pHの低下が抑えられる。
⑥ 冷所で保存すると血小板寿命の低下や不可逆的な形態変化を引き起こし輸血効果が低下する。
⑦ 振とうを加えず静止状態での保存はpHの低下に伴って凝集能の低下もみられるが、静置状態での保存でも6時間程度までであれば変化は少ないと考えられている。

血漿製剤(新鮮凍結血漿、FFP)
① 血漿の中には不安定な凝固因子が含まれていることから、使用する分のみ冷凍庫から取り出し適切な方法で融解後、速やか(3時間以内)に使用する。
② なお一度融解したものは、再凍結して使用することはできないので、注意する。
③ 製造工程における凍結の際にリンパ球が壊れてしまうため、放射線照射は必要ない。
④ 製剤を箱から丁寧に取り出し、破損がないことを確認した上でビニール袋に入れたまま恒温槽やFFP融解装置を用いて30~37℃の温湯にて融解する。
⑤ やむを得ず上記装置を用いずに融解する場合は、温度計で30~37℃に設定した温湯中で攪拌しながら融解する。
⑥ 恒温槽の水は清潔に保つ。
⑦ 融解時には輸血用器具との接続部が汚染しないように注意する。
⑧ 新鮮凍結血漿は凍った状態ではバッグ等が非常にもろくなっており、簡単に破損しやすいため、取り扱いには十分に注意する。
⑨ 他薬剤との混注は避ける。
⑩ 不溶性物質など外観上に異常を認めた場合は使用しない。
乳び(脂肪成分の析出により血漿が白濁したもの)→食餌性のものであり使用可能
低温融解によるクリオプレシピテート析出→37℃の加温で消失すれば使用可能
高温融解によるタンパク変性→使用不可

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。