HbA1c(ヘモグロビンA1c)とAGEs(終末糖化産物)
いずれも「糖化」という生体反応によって生じる物質であり、非常に密接な関係にあります。
HbA1cとは?
- 定義: HbA1cは、赤血球中のヘモグロビン(酸素を運ぶタンパク質)にブドウ糖が結合(糖化)したものです。
- 測定意義: 赤血球の寿命が約120日であるため、HbA1cの測定値は、過去1~2ヶ月間の血糖値の平均を反映するとされています。糖尿病の診断や、血糖コントロールの状態を把握する上で非常に重要な指標です。
- 生成プロセス: 血糖値が高い状態が続くと、ヘモグロビンとブドウ糖が非酵素的に結合しやすくなり、HbA1cが増加します。この結合は、いわば「ヘモグロビンの糖化」の一種です。
AGEs(終末糖化産物)とは?
- 定義: AGEsは、体内のタンパク質や脂質がブドウ糖と非酵素的に結合(糖化)し、さらに複雑な化学反応を経て生成される最終的な物質の総称です。
- 生成プロセス: 糖化反応は非常にゆっくりと進行し、一度生成されると分解されにくく、体内に蓄積していきます。血糖値が高い状態が長く続くほど、体内で多くのAGEsが生成・蓄積されます。
- 影響: AGEsは、様々な組織や臓器に蓄積することで、その機能障害を引き起こします。例えば、血管壁に蓄積すれば動脈硬化を促進し、コラーゲンに蓄積すれば組織の弾力性を失わせ、肌の老化や骨の脆さにも関与します。糖尿病合併症(神経障害、網膜症、腎症など)の主な原因の一つと考えられています。
HbA1cとAGEsの関係
両者は「糖化」という共通のメカニズムによって生成されるため、以下のような関係があります。
- HbA1cは、特定のAGEsの一種である:
- 厳密に言えば、HbA1c自体がヘモグロビンという特定のタンパク質にブドウ糖が結合した「糖化ヘモグロビン」であり、まさに「糖化最終産物」の一つです。
- HbA1cは、全身のAGEs蓄積の指標となる:
- HbA1cが高いということは、過去1~2ヶ月間、体全体の血糖値が高い状態にあったことを意味します。
- 全身の血糖値が高い状態が続けば、ヘモグロビンだけでなく、血管壁のコラーゲン、神経細胞、目の水晶体など、体中のあらゆるタンパク質や脂質も同時に糖化が進み、AGEsが生成・蓄積されます。
- したがって、HbA1cが高いほど、全身の組織におけるAGEsの生成量が多く、蓄積量も多いと考えられます。HbA1cは、体内の全体的なAGEs負荷を推測するための優れたマーカーとして機能します。
- 高血糖(高HbA1c)が、様々なAGEs関連疾患のリスクを高める:
- 糖尿病患者さんでHbA1cが高い状態が長く続くと、AGEsの蓄積が加速し、糖尿病合併症(神経障害、網膜症、腎症、大血管障害など)の発症・進行リスクが顕著に高まります。
- 糖尿病でない人でも、HbA1cが高めの状態(いわゆる境界型糖尿病や、隠れ高血糖)が続くと、加齢とともに動脈硬化、骨粗しょう症、アルツハイマー病など、AGEsが関与する様々な疾患のリスクが増加することが指摘されています。
まとめると、HbA1cは「糖化ヘモグロビン」という特定の糖化産物であり、その値は体全体の糖化の程度、ひいてはAGEsの蓄積量を反映する非常に重要な指標と言えます。血糖コントロールを良好に保ちHbA1cを下げることは、AGEsの生成と蓄積を抑え、関連する疾患のリスクを低減するために不可欠です。