加齢にともなうAGEs分解能の低下
加齢に伴いAGEs分解能は低下すると考えられています。
AGEs (Advanced Glycation End-products:終末糖化産物) は、体内のタンパク質や脂質が糖と結合して生成される物質で、加齢や高血糖状態によって蓄積が進みます。
体にはAGEsを分解・排出する酵素(例:AGE-receptor 1 (AGER1) や様々なAGEase酵素)が存在しますが、これらの酵素の活性は加齢とともに低下する傾向があります。
また、AGEsの生成量が増加する一方で、分解能が低下するため、体内のAGEs蓄積量が増加しやすくなります。
このAGEsの蓄積は、糖尿病合併症、動脈硬化、アルツハイマー病、骨粗しょう症など、様々な加齢関連疾患の発症や進行に関与すると考えられています。
したがって、加齢に伴うAGE分解能の低下は、健康維持において重要な課題の一つとされています。
AGEsを分解・排出する酵素(例:AGE-receptor 1 (AGER1) や様々なAGEase酵素)
AGEs(終末糖化産物)を分解・排出する主要な酵素や受容体について詳しく説明します。体内のAGEsを処理するメカニズムは複雑で、いくつかの経路が関与しています。
AGEsの分解・排出に関わる主な酵素と受容体
主に以下の2つのタイプに分けられます。
- AGEsを認識し、除去・分解を促進する受容体
- AGEsそのものを直接分解する酵素
- AGEsを認識し、除去・分解を促進する受容体
これらの受容体は、細胞表面でAGEsを認識し、細胞内への取り込み(エンドサイトーシス)を介してAGEsの除去を促したり、特定のシグナル伝達経路を活性化したりします。
- AGE-receptor 1 (AGER1 / OST-48):
- 機能: AGER1は、AGEsを細胞内に取り込み、その分解・排泄を促進する働きを持つ受容体です。特に、AGEsによって引き起こされる炎症反応や酸化ストレスを抑制する「負の制御因子」として機能すると考えられています。糖尿病や加齢に伴う腎臓病などの組織障害に対する保護的な役割が示唆されています。
- 特徴: 血管内皮細胞、メサンギウム細胞、マクロファージなどで発現しており、寿命延長にも関与する可能性が指摘されています。
- Scavenger Receptors (スカベンジャー受容体):
- 機能: 多様な異物を認識・除去する受容体群であり、AGEsもそのリガンドの一つです。細胞膜上に存在し、AGEsを結合して細胞内に取り込み、リソソームなどで分解する経路に関与します。
- 種類: CD36、SR-A(Scavenger Receptor A)、SR-BI(Scavenger Receptor B Type I)、FEEL-1, 2、ERM、メガリンなどが含まれます。特に「メガリン」は腎臓の近位尿細管に多く存在し、血液から濾過された低分子のAGEsを再吸収し、尿中への排泄を助ける重要な役割を担っています。
- AGE-receptor 3 (AGER3):
- AGER1と同様にAGEsの分解・除去に関与するとされていますが、詳細はまだ研究途上です。
- AGEsそのものを直接分解する酵素(AGEase酵素)
これらは、AGEsの化学構造そのものを切断し、無毒化したり、より排泄されやすい形に分解したりする酵素です。
- AGEase (AGEs分解酵素):
- 機能: AGEaseは、AGEsの架橋構造や修飾されたアミノ酸残基を直接分解する酵素の総称です。特定のAGEsに対して特異的に作用するものや、より広範なAGEsに作用するものがあります。
- 例: 研究段階ですが、特定のAGEs(例えば、AGE-ペントシジンやAGE-ピラリンなど)を分解する酵素の存在が示唆されています。しかし、生体内でAGEsを効率的に分解する主要なAGEase酵素が完全に特定されているわけではありません。
注意すべき受容体:RAGE (Receptor for Advanced Glycation End-products)
「AGEs受容体」と聞くと、RAGE(Receptor for Advanced Glycation End-products)を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、RAGEはAGEsを分解・排出する受容体とは異なり、AGEsが結合することで炎症や酸化ストレスを亢進させるシグナル伝達を活性化する受容体です。つまり、AGEsの有害作用を媒介する役割を担っています。
まとめ
AGEsの分解・排出は、AGER1やスカベンジャー受容体などがAGEsを細胞内に取り込み、リソソームなどで分解する経路と、AGEase酵素がAGEsそのものを直接分解する経路によって行われます。しかし、加齢とともにこれらの分解・排出能力が低下することで、体内にAGEsが蓄積しやすくなり、様々な疾患のリスクを高めると考えられています。
今後も、AGEsの生成抑制や分解促進に関する研究が進むことが期待されます。