第2回 ミトコンドリアが老化の司令塔である理由
健康と老化の分岐点は、意外にも細胞の「エネルギー工場」にありました——それがミトコンドリアです。エネルギーを生み出す一方で、活性酸素を発生し、老化の引き金にもなるこの小さな器官が、なぜ“老化のハブ”と呼ばれるのかを解説します。
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私たちの体は約37兆個の細胞でできており、その一つひとつにエネルギー供給のための「発電所」が備わっています。それがミトコンドリアです。ブドウ糖や脂肪を使ってエネルギー(ATP)を生産する働きがあり、「細胞のエネルギー工場」とも呼ばれています。
しかし近年の研究では、ミトコンドリアは単なる発電所ではなく、「老化の司令塔」としての顔を持つことが明らかになってきました。その理由は大きく3つあります。
第一に、ミトコンドリアは大量の活性酸素(ROS)を生み出す場所だという点です。エネルギーを作る過程でどうしても副産物としてROSが発生します。健康な状態であれば抗酸化酵素(SODやグルタチオンなど)がこれを中和してくれますが、加齢とともにこの機能は衰えていきます。するとROSが細胞を傷つけ、DNAやタンパク質、脂質が酸化され、老化が進行します。
第二に、ミトコンドリアが損傷すると、細胞内の免疫センサーがそれを「危険信号(DAMPs)」として検知し、炎症反応を引き起こします。これは本来なら細胞を守るための反応ですが、長期化すれば慢性炎症となり、体内に「燃え続ける火種」を残すことになります。これが前回述べた“inflammaging(炎症性老化)”の一因です。
第三に、ミトコンドリアの劣化は糖の代謝異常にもつながります。糖を効率よくエネルギーに変換できなくなると、余った糖が体内に蓄積され、AGEsが生成されやすくなります。つまり、ミトコンドリアの機能が低下するだけで、「酸化」「炎症」「糖化」のすべてが同時進行する可能性があるのです。
さらに、ミトコンドリアには自己修復や自滅(オートファジーやマイトファジー)といった高度な管理機能が備わっていますが、これも加齢とともに低下します。古くなったミトコンドリアが除去されずに蓄積すると、細胞全体のパフォーマンスが落ち、老化が加速します。
このように、ミトコンドリアは体内の「老化トリガー」を複数握る極めて重要な細胞内構造なのです。
では、ミトコンドリアの劣化を防ぐにはどうすればいいのでしょうか? 次回は、老化三因子のひとつ「酸化ストレス」について、もう少し詳しく掘り下げていきます。
次回予告:
体の中の“錆び”——酸化ストレスの正体と、それが老化にどう関わっているのかを徹底解説します。