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院長日記

第5回 糖化——体を“焦がす”AGEsの脅威

武本 重毅

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料理で食材に焼き目がつくように、私たちの体も“焦げる”のをご存じですか? それが「糖化」と呼ばれる現象。AGEsという分子が蓄積することで、皮膚や血管、骨がダメージを受けます。糖化の正体と、なぜ老化に関係があるのかを探ります。

本文:

毎日の食事で摂る糖は、私たちの体にとって重要なエネルギー源です。しかし、血中に余分な糖が長時間とどまると、思わぬ副作用が発生します。それが「糖化(glycation)」と呼ばれる反応です。糖化とは、ブドウ糖などの還元糖がタンパク質や脂質、核酸に非酵素的に結びつくことで起こる化学反応で、その結果として「AGEs(Advanced Glycation End-products:終末糖化産物)」という物質が体内に蓄積されます。

AGEsが厄介なのは、一度できてしまうと分解されにくく、長期間にわたって体内にとどまり、組織を劣化させることです。たとえば、コラーゲンにAGEsが結合すると、その柔軟性が失われ、皮膚はしわやたるみを生じ、関節や血管は硬くなります。また、骨のタンパク質が糖化すれば、骨密度とは関係なく“もろさ”が増します。

さらに、AGEsは単に組織の構造を劣化させるだけでなく、細胞に炎症や酸化ストレスを引き起こすシグナルを発信するという、まさに“毒性のある焦げ”とも言える存在です。その働きの中心にあるのが「RAGE(Receptor for AGEs)」という受容体です。AGEsがRAGEに結合すると、細胞内で炎症性シグナル(NF-κBなど)が活性化され、炎症や酸化ストレスがさらに増幅されるという悪循環が生じます。

つまり、糖化は“老化の三因子”の中でも、酸化と炎症を増幅する触媒のような役割を担っているのです。

糖化が進行すると、動脈硬化、アルツハイマー病、糖尿病合併症(網膜症や腎症など)といった加齢関連疾患のリスクが高まることも知られています。特に糖尿病患者では血糖値が高くなることで糖化反応が促進されやすく、AGEsの蓄積が加速しやすい傾向にあります。

このような糖化の進行を防ぐには、まず血糖コントロールが基本です。空腹時血糖やHbA1cだけでなく、近年では皮膚のAGEs蓄積を簡易測定する装置も開発されており、自分の「焦げ具合」を可視化できるようになっています。

また、食事や生活習慣の改善も大切です。高温調理された肉類や焼き色の濃い食品にはAGEsが多く含まれており、過剰摂取は控えたいところです。抗糖化成分としては、カルノシン、アミノグアニジン、緑茶ポリフェノールなどが注目されています。

近年、注目されているのがNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)です。NMNはNAD+という補酵素の前駆体であり、ミトコンドリア機能や代謝調節を通して糖代謝の改善に貢献すると考えられています。これによりAGEsの生成を抑える間接的な効果も期待できます。

次回は、これまで紹介してきた酸化・炎症・糖化の3つの敵(破壊者)が、いかにして互いに影響を及ぼし合い、老化を加速させるのか——その“悪循環”の構造に迫ります。

次回予告:

「酸化」「炎症」「糖化」はどうつながっているのか? 老化を進める“負のトライアングル”の正体を解き明かします。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。