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院長日記

第6回 三因子は連鎖する:加速する老化のスパイラル

武本 重毅

酸化、炎症、糖化——この3つはそれぞれ独立した問題ではありません。実は、互いに増幅しあう“悪循環”を形成しているのです。本記事では、そのスパイラル構造を解き明かし、なぜ老化が突然加速するのかを紐解きます。

本文:

これまで、「酸化」「炎症」「糖化」の3つが老化を進める主要因であることを解説してきました。ここで改めて強調したいのは、これら3つの因子は単に“並列”に存在しているのではなく、互いに密接に連携しながら“連鎖反応”を起こしているという点です。

まず、酸化ストレスは直接的に炎症を引き起こします。ミトコンドリアから発生する活性酸素種(ROS)は細胞膜やDNAを損傷し、その結果として細胞から「DAMPs(損傷関連分子パターン)」が放出されます。これが免疫系を刺激し、炎症性サイトカイン(IL-1βやTNF-αなど)の産生が始まります。

炎症が起こると、免疫細胞が活性化し、さらにROSを産生します。つまり、炎症そのものが酸化を促進するのです。このように、酸化と炎症は互いに“燃料”となってスパイラルを描きます。

そこへ糖化が加わると、さらに事態は複雑になります。AGEsは直接的にRAGE(AGEs受容体)を介して炎症性シグナルを活性化し、NF-κB経路を通じて炎症と酸化ストレスを増幅させます。つまり、糖化は炎症と酸化の“点火装置”のような役割を果たしているのです。

さらに、糖化がミトコンドリアの酵素や膜構造にダメージを与えることで、エネルギー代謝が破綻し、さらなるROS発生へとつながります。酸化 → 炎症 → 糖化 → 酸化……という悪循環が生まれ、このループが途切れることなく続く限り、細胞機能は徐々に衰え、老化が加速していくのです。

この連鎖反応は、“静かなる老化のエンジン”とも言えます。症状として現れるのはずっと後になってから。だからこそ、早期にこのループを認識し、どこかで“断ち切る”ことが重要になります。

対策としては、どれか一つの毒を抑えるのではなく、3つすべてを“同時に、かつ連携して”制御することが求められます。たとえば、NMNは糖代謝と炎症制御に働き、水素吸入は酸化と炎症の両方に効果があり、5-ALAはミトコンドリアの安定化を通してROS発生を抑える——このように多面的に働きかける戦略が理想です。

次回はいよいよ最終回。「アンチエイジング3本の矢」が、この“老化スパイラル”をどう断ち切るのか、科学的に検証していきます。

次回予告:

老化は止められるのか? 次回は「アンチエイジング3本の矢」の科学的根拠と実践法を徹底解説!

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。