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院長日記

がん細胞はミトコンドリア依存性アポトーシス(細胞死)を回避

武本 重毅

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がん細胞は、ミトコンドリア依存性アポトーシス(細胞死)を回避する能力を獲得することで、異常な増殖を続けます。このプロセスには、Bcl-2ファミリーのタンパク質の不均衡や、ミトコンドリア膜の構造的・機能的改変など、複数の分子機構が関与します。

 

  メカニズム:がん細胞のミトコンドリア回避戦略

  1. 抗アポトーシスBcl-2タンパク質の過剰発現
  • がん細胞は、Bcl-2、Bcl-xL、Mcl-1などの抗アポトーシス因子を過剰に発現し、Bax/Bakの活性化を阻害します。
  • BaxやBakは通常、ミトコンドリア外膜に孔を形成し、シトクロムCの放出→カスパーゼ活性化を誘導しますが、これを阻止されることでアポトーシスが回避されます → Bcl-2タンパク質によるBaxの封じ込め (Ayscough et al., 2025)
  1. BH3-onlyタンパク質の抑制
  • 正常細胞では、ストレス時にBH3-onlyタンパク質(e.g., PUMA, NOXA)がBcl-2を中和し、Bax/Bakを活性化。
  • がん細胞ではこれらの発現を抑えることで、アポトーシス誘導が封じられます。
  1. ミトコンドリア外膜透過性の変化(MOMPの抑制)
  • がん細胞は、ミトコンドリア外膜の安定化や膜成分(カルジオリピンなど)の変化によって、MOMP(mitochondrial outer membrane permeabilization)を阻止。
  • この物理的バリアによってシトクロムCの漏出が防がれます。
  1. 代謝リプログラミングと抗酸化防御
  • 高い酸化ストレスに適応するために、ミトコンドリアの再編成と脂質代謝の最適化が進みます。
  • たとえば、リポイド滴(LD)による脂肪酸蓄積とミトコンドリア保護も報告されています → LD形成によるミトコンドリアの保護 (Liu et al., 2025)

 

 Source Analysis

1 Bcl-2タンパク質によるBaxの抑制(Ayscough et al., 2025)  Bcl-2はBaxをミトコンドリア膜で封じ込み、アポトーシスの初期段階を防ぐ

2 LD経由のミトコン保護(Liu et al., 2025)  酸性環境下で脂質代謝とオートファジーがミトコンドリアの機能を支える

3 BH3ミメティクスの薬理標的(BT, 2025)  Bcl-2とBH3の結合が古くから保存され、がん治療の標的になる

 

  結論 がん細胞は、ミトコンドリア由来アポトーシスを回避するために、Bcl-2ファミリーによるBax/Bakの抑制、膜透過性の改変、代謝適応といった多層的な戦略を用います。これらの仕組みは、治療標的として注目されており、BH3ミメティクスなどの薬剤が開発されています。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。