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院長日記

免疫とミトコンドリアの関係:ME/CFSと長期COVID(PASC)に関する最新研究

武本 重毅
  1. 研究の背景
  • ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)は、強い倦怠感や思考力低下(ブレインフォグ)、運動後の回復遅延(PEM)などを特徴とする慢性疾患です。
  • PASC(Long COVID/新型コロナ後遺症)も、似た症状を示すことがあります。
  • これらの病気では「自己免疫(自分の免疫が自分を攻撃する現象)」と「ミトコンドリアの働きの異常」が深く関わっていることが注目されています。

 

  1. 研究の内容

ドイツと国際研究グループの報告(2025年、プレプリント※)によると:

  • 患者さんの血液中の抗体(IgG)を取り出し、人の細胞に加えると、
    ミトコンドリアが「断片化」し、エネルギー産生に影響することがわかりました。
  • この変化は、患者さんごとに異なり、特に女性で顕著でした。
  • また、このIgGは炎症を促す物質(サイトカイン)の分泌も変化させていました。
  • ME/CFSの患者さんでは「エネルギーのつくり方の変化」、PASC患者さんでは「血液の固まりやすさの変化」など、異なる影響が見られました。

※「プレプリント」とは:査読(専門家のチェック)前の速報研究です。臨床診断や治療指針にはまだ使えません。

 

  1. 研究が示すこと
  • 患者さんの抗体が、ミトコンドリアの働きや炎症反応を変化させることがある。
  • これは「慢性疲労」や「ブレインフォグ」といった症状の一因になっている可能性があります。
  • 今後、この仕組みを標的とする治療法(抗体や代謝異常への介入)が開発される可能性があります。

 

  1. イメージ

  • 元気な工場(ミトコンドリア) → 煙突から白い煙(エネルギー)をもくもく
  • 壊れかけた工場 → 屋根が崩れ、黒い煙が少ししか出ない
  • 炎症のサイン → 工場の周囲に赤い警告ランプが点滅
  • ME/CFS IgG → 工場の中の機械の「使い方」を変える
  • PASC IgG → 工場周辺の「配管・血流」にトラブルを起こす

 

まとめ

この研究は、「免疫とミトコンドリアのつながり」が、慢性疲労症候群や長期COVIDの症状に関係している可能性を示しました。
まだ基礎研究の段階ですが、将来的には新しい治療法につながる重要な手がかりとなります。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。