第3回:ストレス社会という見えない感染症 ― 経済危機と健康の深い関係 ―
「病気の原因はストレスです」
そう言われたことのある方は、きっと少なくないでしょう。
けれども、それが単なる“気のせい”ではなく、
れっきとした医学的事実であることをご存じでしょうか?
■ 経済が揺らぐと、人の心も揺らぐ
リーマンショックのとき、
多くの国で自殺率が跳ね上がり、
うつ病、不眠症、生活習慣病の患者数が急増しました。
経済危機が起きると、
失業、不安、社会の分断といった“目に見えないストレス”が、
私たちの心と体にじわじわと影響を及ぼしてくるのです。
■ ストレスは「慢性炎症」を引き起こす
ストレスを感じると、体は交感神経を優位にし、
“戦うモード”に入ります。
血圧が上がり、心拍が速くなり、胃腸の動きが止まり、
免疫は「攻撃的なモード」に切り替わります。
これが短期で終われば問題ありませんが、
現代人のように慢性的にストレスを抱え続けていると、
体の中で炎症反応が常に起きている状態になってしまうのです。
これは“見えない火事”のようなもので、
血管、脳、内臓、そしてミトコンドリアにまでダメージを与えます。
■ 生活習慣病は「炎症病」である
糖尿病も高血圧も脂質異常症も、
その根底には慢性炎症が潜んでいます。
つまり、ストレス社会に生きる私たちは、
外見は元気でも、内側では静かに病が進行している可能性があるのです。
この事実は、医師として非常に重く、
そして看過できない現実です。
■ だからこそ、「予防」は社会のインフラに
経済危機に備える“セーフティネット”があるように、
私たちの健康にも、予防というネットが必要です。
運動、栄養、睡眠、呼吸、そしてミトコンドリアのメンテナンス。
心と体が“ストレス耐性”を持つように、
日々の生活の中で、小さな習慣を重ねていくことが大切なのです。
■ 終わりに
健康は、「お金で買えない」とよく言います。
でも実は、お金の揺らぎが健康をも左右してしまうのが現実です。
だからこそ、医学はこれから、
単に「病気を治す」だけでなく、
社会の不安にどう寄り添えるかが問われているのだと思います。
次回(第4回)は、「戦争と医療」という少し切り込んだテーマを通して、
人間の“進歩”と“代償”の関係を見つめていきたいと思います。