第2節|脳内ミトコンドリアネットワークの強化 ― 海馬・シナプス・神経細胞で起きる再生の連携 ―
カテゴリー:
ミトコンドリアは“脳内通信”の裏方だった
脳の神経細胞は、情報を伝えるために電気信号と化学物質(神経伝達物質)を使います。
これらの活動には、大量のエネルギー(ATP)が必要です。
そのエネルギーを供給しているのが、神経細胞内に数多く存在するミトコンドリアです。
しかも近年では、ミトコンドリアが単なる“発電機”ではなく、神経細胞の情報伝達そのものを制御する存在であることが分かってきました。
とくに記憶の形成に関わる海馬では、
ミトコンドリアの分布・移動・活性が、シナプスの可塑性や記憶の定着力と密接に関係しているのです。
NMN × 5-ALA × リチウムが作る「神経の再生回路」
3つの分子が脳内ミトコンドリアネットワークに与える主な影響を、以下に整理します。
NMN:代謝の指令系を再起動する
- NAD⁺濃度を上昇させ、SIRT1/3を活性化
- BDNF(脳由来神経栄養因子)の発現を促進
- CREB経路が刺激され、記憶形成回路が強化
5-ALA:発電効率を底上げする
- ヘム合成 → 電子伝達系 → ATP生成が活性化
- シナプスにおける電位変化や再分極プロセスがスムーズに
リチウム:情報伝達の安定性を担保する
- ミトコンドリアCa²⁺の過負荷を抑え、過興奮による細胞死を予防
- GSK-3βを阻害し、タウタンパクの過剰リン酸化を抑制
- 酸化ストレスを抑え、ミトコンドリア膜電位を維持
「ニューロン個体」ではなく「ネットワーク単位」の再生へ
従来の神経保護戦略は、1つのニューロンを対象とすることが多くありました。
しかし、脳の機能はネットワーク単位で発揮されるものです。
たとえば海馬−前頭葉−扁桃体といった回路全体で、感情記憶や学習が成立しています。
NMN・5-ALA・リチウムは、それぞれ異なる場所で作用しますが、
“ネットワーク全体の再生”を目指す上で、きわめて補完的な役割を果たすことができます。
たとえば:
神経回路 関連機能 補完作用
海馬回路 記憶と学習 NMN(BDNF↑)、5-ALA(ATP↑)
前頭前野 意思決定・集中 リチウム(安定化)、NMN(SIRT1)
扁桃体 情動制御 リチウム(抗ストレス)、NMN(抗炎症)
神経変性疾患モデルにおけるシナジー
マウスモデルや細胞研究では、3成分のうち2つ以上を同時に使うことで、
単独よりも明確な神経保護効果や認知機能改善が報告されています。
今後、3剤併用の介入試験がヒトで行われれば、神経ネットワークの再建という新たな領域が拓かれるかもしれません。
次節への導入
では、このような「脳ミトコンドリアネットワークの再生」が、
実際の疾患モデル──たとえばアルツハイマー病やパーキンソン病、うつ病──において、どのように臨床応用可能か?
次の第3節では、こうしたミトコンドリアトリオの治療的ポテンシャルを疾患別に具体的に掘り下げていきます。