第3節|神経変性疾患への応用可能性 ― アルツハイマー・パーキンソン病・うつ病に挑むミトコンドリア戦略 ―
神経変性とは“ミトコンドリアの崩壊”から始まる
アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、うつ病などに共通するのは、
神経細胞のエネルギー代謝障害と酸化ストレスの蓄積、そして慢性的な神経炎症です。
これらの病態はすべて、ミトコンドリア機能の低下が引き金となって進行します。
つまり、神経変性とは「ミトコンドリアの崩壊」によって引き起こされるといっても過言ではありません。
病態別にみる3成分の作用マップ
アルツハイマー病(AD)
病態の特徴 期待される作用
アミロイドβ・タウの蓄積 リチウム:GSK-3β阻害により蓄積抑制
ミトコンドリア障害 5-ALA:ATP産生・酸化ストレス抑制
NAD⁺低下・SIRT1抑制 NMN:NAD⁺回復とサーチュイン活性化
ポイント:海馬における神経可塑性の維持が、3成分の組み合わせで実現可能
パーキンソン病(PD)
病態の特徴 期待される作用
複合体I障害によるエネルギー不全 5-ALA:ミトコンプレックス活性化
ドパミン神経の酸化ストレス死 リチウム:ミトコンドリア保護・抗酸化
線条体・黒質の機能低下 NMN:SIRT1活性化による神経保護・修復促進
ポイント:エネルギーの底上げと抗炎症作用が、進行抑制のカギ
うつ病・気分障害
病態の特徴 期待される作用
NAD⁺・ATPの低下(意欲低下・集中力低下) NMN・5-ALA:代謝・出力を改善
慢性炎症・神経ネットワークの断裂 リチウム:抗炎症・神経回路の再構築
ポイント:従来の薬物療法に加え、“ミトコンドリア軸”での底上げ戦略が重要
ヒトへの応用:今後の鍵は“低用量・多点介入”
臨床応用の現場では、特定の分子に依存するよりも、
低用量で多角的に補完し合う設計=“ミトコンドリアトリオ戦略”が有効と考えられます。
例えば:
- NMN(250mg/日):朝の空腹時に摂取し、NAD⁺を効率よく増加
- 5-ALA(50〜100mg/日):昼に摂取し、電子伝達系の火力を向上
- リチウム(医師管理下での微量補給):夜に服用し、神経安定と保護に寄与
このような“時間帯別戦略”を採用することで、 脳内の代謝リズムや睡眠リズムに合わせた補完効果も期待されます。
世界の研究動向と今後の臨床展開
- アルツハイマー病に対する低用量リチウム療法(Lithium microdose therapy)の臨床試験
- NMNの認知症ハイリスク群における予防効果の介入研究(UCLA・慶應義塾大学など)
- 5-ALAのがん・糖尿病領域からの神経応用への広がり
これらは、いずれも疾患を「治す」よりも「進ませない」ための医療の再構築を示唆しています。
次節への導入
次の第4節では、これらの知見をどのように自由診療やセルフケア、未病対策として社会実装していくか、
具体的な臨床シナリオや介入モデルをご紹介します。