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院長日記

「制御性T細胞(Treg)」とミトコンドリア研究・アンチエイジング医学のつながり

武本 重毅

今年のノーベル賞テーマ「制御性T細胞(Treg)」と、私の専門であるミトコンドリア研究・アンチエイジング医学は、実は深くつながっています。

以下に、最新の知見を踏まえて体系的に整理します。

  1. 制御性T細胞(Treg)の役割と代謝的特徴

制御性T細胞(Treg)は、免疫の「ブレーキ役」として働き、自己免疫疾患を防ぎ、炎症の暴走を抑える細胞群です。

その分化・機能維持には、ミトコンドリア代謝(特に酸化的リン酸化:OXPHOSが不可欠です。

  • 活性化T細胞(エフェクターT細胞)は解糖系(glycolysisに依存。
  • 一方で、制御性T細胞(Treg)はミトコンドリアの酸化的代謝に依存。

 → エネルギー効率を重視し、長期的な免疫抑制を持続します。

 → これにより慢性炎症環境でも安定して機能できる。 

 坂口先生たちの研究でも、Treg特有のミトコンドリア依存性代謝経路が報告されています。

 

  1. ミトコンドリアの役割:Tregの分化と機能維持

Tregの「司令塔」である転写因子 FOXP3 は、ミトコンドリア機能を直接的に制御します。

  • FOXP3はPGC-1αやSIRT3などのミトコンドリア関連遺伝子を誘導し、  

酸化的リン酸化(OXPHOS)を高めます。

  • FOXP3欠損マウスでは、Tregが代謝的に破綻し、自己免疫疾患を発症します。
  • NAD / Sirtuin経路(NMN補給で活性化)がFOXP3安定化に寄与するという報告も。

 → つまり、「アンチエイジング3本の矢®」のNMNはTreg機能を間接的に支える可能性があります。 

 ミトコンドリア機能=Tregの免疫抑制機能の“エネルギー的基盤”。

 

  1. 老化・慢性炎症とTreg・ミトコンドリア

老化に伴う免疫変化(=免疫老化)では、Tregとミトコンドリア双方のバランスが崩れます。

状態      Treg                                  ミトコンドリア

若年      FOXP3安定、抗炎症維持    OXPHOS・ミトファジー正常

老化      FOXP3低下、炎症過多     ROS増加・ミトファジー低下・ATP産生低下

このため、老化個体では慢性炎症(inflammagingが進行します。

ミトコンドリアのリセット(NMN・5-ALA・水素など)により、

Tregのエネルギー代謝を改善し、炎症性老化を抑制できる可能性があります。

 

  1. 応用展望:「免疫老化 × ミトコンドリア医療」

近年は「ミトコンドリア免疫代謝(immuno-metabolism)」という分野が確立しつつあります。

Tregを中心としたこの代謝ネットワークは、以下の臨床領域に波及しつつあります:

  • 自己免疫疾患(SLE, 多発性硬化症, IBD)
  • がん免疫療法(Tregを一部解除して抗腫瘍免疫を高める)
  • 老化制御(免疫老化・炎症性老化の緩和)

つまり―  Tregは「免疫のミトコンドリア的存在」  

ミトコンドリアは「Tregの生命維持装置」

この相互作用こそ、老化と免疫の“接点”であり、

私が提唱する「アンチエイジング3本の矢®」の理論的支柱のひとつと言えます。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。