「免疫のブレーキ細胞」を活かす研究 ― 制御性T細胞(Treg)とがん免疫療法の最前線
- 免疫の“ブレーキ”を科学する
私たちの免疫は、病原体やがん細胞を攻撃する「アクセル」と、暴走を防ぐ「ブレーキ」のバランスで成り立っています。
このブレーキ役を担うのが制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)。
Tregは、アレルギーや自己免疫疾患を抑える一方で、がんに対しては免疫の働きを弱めてしまうこともあります。
- CCR4を標的にした「Treg除去」の発想
武本重毅院長(熊本医療センター/現・聚楽内科クリニック院長)は、HTLV-1関連成人T細胞白血病(ATL)の臨床研究を通じて、この「免疫のブレーキ細胞」をどう制御するかを探ってきました。
その鍵となったのが、Tregの表面に高発現するCCR4(ケモカイン受容体)という分子。
武本院長らの研究は、CCR4を標的にした抗体薬モガムリズマブ(mogamulizumab)が、がん細胞だけでなく、がんの免疫抑制を助けているTregを選択的に除去できることを示しました。
- 国際学会での発表と臨床成果
2013年スイス・ルガーノで開催されたICML2013(国際悪性リンパ腫会議)では、武本院長がこの成果を発表。
モガムリズマブと多剤併用療法(mLSG15)の組み合わせが、高悪性度CCR4陽性ATLの初期治療として有望であることを世界に報告しました。
その後、CCR4を標的としたモガムリズマブ療法はがん免疫療法としても注目され、進行固形がんを対象にした第I相臨床試験(NCT01929486)が日本国内で展開されました。
この試験では、Tregを減らしながら、がんを攻撃するCD8陽性T細胞を温存する用量が鍵となることが明らかにされました。
- 「免疫ブレーキ」を外しすぎない治療設計
Tregは過剰に除去すると自己免疫疾患を招くため、「適度な解除」が重要です。
武本院長らの研究は、モガムリズマブを低用量・最適化投与することで、悪性細胞を攻撃しつつ免疫の均衡を保つという新しい治療戦略を提案しました。
この成果は2021年、Nature Communications誌にも掲載され、「がん免疫療法におけるTreg選択的除去」という新概念を提示しました。
- ミトコンドリアとの意外なつながり
制御性T細胞は、エネルギー源としてブドウ糖よりもミトコンドリアの脂肪酸酸化(OXPHOS)に依存しています。
ミトコンドリアが健全であるほど、Tregの抑制力は安定します。
このことから、武本院長はミトコンドリアを元気に保つ治療(NMN・5-ALA・水素吸入)を、免疫調律の観点からも位置づけています。
「ミトコンドリアを整えることは、免疫の調律を整えること」――この考え方は、先生の提唱するアンチエイジング三本の矢®の中核をなす思想です。
- 未来への展望
制御性T細胞は、がんだけでなく、慢性炎症、アレルギー、老化とも深く関係しています。
HTLV-1研究から始まったこの流れは、“免疫・代謝・老化”を一体で理解する時代へと広がっています。
武本重毅院長は、臨床医・研究者・社会的実践者として、
「ミトコンドリアから免疫を整え、生命力を再生する」医療の新しい形を提案しています。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/icml2013/201306/531260.html
https://www.tokushima-u.ac.jp/fs/1/9/1/2/3/6/_/69_1-2.pdf