腸内フローラとIBDに、水素はどう関わる?
「腸内フローラ」「腸活」という言葉、よく耳にするようになりましたね。実は、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの炎症性腸疾患(IBD)とも、腸内フローラのバランスは深く関わっています。そして近年、「水素(水素水・水素ガス)」が、この腸内環境や腸の炎症に関与する可能性が報告され、世界的に研究が進んでいます。
ここでは、患者さん向けに「水素と腸内フローラ・IBD」の関係を、できるだけやさしく解説します。
- 腸内フローラとIBDの関係
私たちの腸には、100兆個以上の細菌がすんでおり、これを「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼びます。
この腸内フローラは、次のような働きをしています。
- 食べ物を分解してエネルギーをつくる
- ビタミンや短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸など)をつくる
- 腸の粘膜バリアを守る
- 免疫のバランスを整える
IBDでは、この腸内フローラのバランスが「乱れた状態(ディスバイオシス)」になっていることが分かってきました。
腸の粘膜の「すき間」が緩み、腸の中の菌や毒素(エンドトキシン)が血液側に漏れ出し、免疫反応が暴走してしまう――これが、炎症を長引かせる一つのメカニズムと考えられています。
- 水素って、どんな働きをするの?
水素は宇宙でもっとも小さい分子で、無色・無臭のガスです。
医療・研究の世界では、次のような性質が注目されています。
- 「悪玉」の活性酸素(ヒドロキシルラジカルなど)を選んで減らす
- 細胞の中、とくにミトコンドリアのストレス(酸化ストレス)をやわらげる
- 炎症を促す物質(TNF-α、IL-6、IL-1βなど)の過剰な産生を抑える
- 細胞死(アポトーシス、オートファジー、パイロトーシス)を調整する
そして近年、「水素を溶かした水(Hydrogen-Rich Water:HRW)」や「水素を多く含む電解水」を飲むことで、腸内フローラや腸のバリア機能が変化するという動物実験・小規模研究が報告されています。
- 水素と腸内フローラ
動物実験や少人数の試験から、次のような変化が報告されています(いずれも“可能性”の段階です)。
- 腸の粘膜の「タイトジャンクション(すき間を閉じるタンパク質)」が増え、腸のバリア機能が改善する
- 腸内フローラのバランスが変化し、「酪酸産生菌」など有益な菌が増える傾向
- 酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸が増え、腸のエネルギー源や抗炎症に働く
- 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)が下がる方向に働く
まだ人間での大規模な臨床試験は少なく、「決定的な治療」と言える段階ではありませんが、腸内フローラの“土台”をととのえる一つのサポートになる可能性が示されています。
- IBDに対する水素の研究
潰瘍性大腸炎や実験的な大腸炎モデルを使った研究では、
- 大腸の潰瘍や粘膜障害が軽くなる
- 体重減少や下痢、血便などの「病気のスコア」が改善する
- 抗酸化酵素が増え、酸化ストレスの指標(MDAなど)が減る
- 腸の粘膜への白血球浸潤が減る
といった結果が報告されています。
一方で、
- どのくらいの濃度の水素を
- どのくらいの期間
- 水、ガス吸入、点滴など、どの形で使うのが最も良いのか
といった「最適な使い方」は、まだ研究段階です。
- 大切なポイント:あくまで“補助”であり、標準治療の代わりではない
ここが一番重要なところです。
- 水素水や水素ガスは、IBDの標準治療(5-ASA、ステロイド、生物学的製剤など)を置き換えるものではありません。
- 自己判断で薬を減らしたり中止したりすると、病状が悪化する危険があります。
- あくまで「腸内環境を整えるための補助的なアプローチ」として、主治医と相談しながら取り入れていくのが安全です。
また、水素水にはさまざまな商品があり、
- 水素濃度が十分か
- 衛生面・品質管理がしっかりしているか
- 誇大広告ではないか
を慎重に見極める必要があります。
- まとめ:腸を守る“土台づくり”の一つとして
- IBDでは、腸内フローラの乱れ・腸のバリア機能の低下・慢性的な炎症が、互いに悪循環をつくっています。
- 水素は、酸化ストレスや炎症をやわらげ、腸内フローラや腸のバリア機能に良い影響を与える可能性が、基礎研究や小規模研究で示されています。
- ただし、まだ「標準治療」と呼べる段階ではなく、「今後に期待される補助療法候補」の位置づけです。
IBDの治療の基本は、
- きちんとした薬物療法
- 主治医との継続的なフォロー
- 食事・睡眠・ストレスケアなどの生活習慣
です。
そのうえで、「腸内フローラを整えたい」「できる範囲で体にやさしい選択を取り入れたい」と考える方にとって、水素は一つの選択肢になりうるかもしれません。
興味のある方は、自己判断で始める前に、必ず主治医にご相談ください。当院でも、最新の研究情報を踏まえながら「腸内環境と水素」の活用について、個々の患者さんに応じた相談を行っていきます。

