Director's blog
院長日記

水素吸入療法 ― どこまで分かっていて、どこからはまだ研究段階なのか

武本 重毅

私たちの体は、生きるために酸素を使ってエネルギーを作っています。ところがその過程で「活性酸素(ROS)」が発生し、過剰になると細胞やDNAを傷つけ、炎症・疲労・加齢・病気の悪化につながることが分かっています。

近年、この活性酸素の中でも特に悪性度の高い 「ヒドロキシラジカル(•OH)」を消去できる可能性がある分子として、“水素(H₂)”が世界中の研究者から注目されています。

水素吸入療法は、その水素をガスとして吸入し、体内に届ける方法です。

水素吸入療法で “わかってきたこと”

これまでの研究や臨床試験から、次の点については比較的明らかになってきています。

 ① 活性酸素・炎症ストレスを抑える可能性

水素ガスを吸入した人や動物では、

  • DNA酸化ストレス
  • 炎症マーカー
  • 乳酸蓄積

などが低下した報告があります。

特に運動後や病中・病後の疲労感が軽減する例も報告されています。

 ② 痛み・疲労・息苦しさなどの 「症状改善」

COVID-19患者、慢性呼吸器疾患、変形性膝関節症、放射線治療中の患者さんなどに対し、

  • 息苦しさ
  • 疼痛
  • だるさ(倦怠感)
  • 生活の質(QOL)

が改善したという臨床研究が複数報告されています。

 ③ 副作用や安全性については比較的安心できる

適切に設計された医療機器での使用では、

  • 重篤な副作用
  • 肺へのダメージ
  • 血液データの異常

などは現在まで報告されていません。

ただし、機器の品質や濃度管理が不十分な装置では「爆発リスク」や「効果の不均一」が指摘されています。

「安全性は機器選びで大きく変わる」という点はとても重要です。

まだ研究段階で、結論が出ていないこと

一方で、水素吸入療法は医療としての歴史がまだ浅く、次の点については結論が出ていません。

 ① 病気を治すかどうか(治療効果の確立)

現段階では、水素吸入が、

  • がんを治す
  • 寿命を延ばす
  • 病気の根本治療になる

という証拠はありません。

研究は進んでいますが、あくまで症状改善や回復支援として扱うべき段階です。

 ② 最適な濃度・時間・頻度はまだ未確定

研究の多くは発展途中であり、

  • どの疾患に
  • どの濃度の水素を
  • どれくらいの時間
  • どのくらいの頻度で吸入すべきか

という治療ガイドライン(標準治療プロトコール)はまだ統一されていません。

 ③ 長期使用のデータはまだ少ない

短期的には安全性が高いとされていますが、
数年単位での継続使用の研究データは不足しています。

現時点での水素吸入の正しい位置づけ

現時点での科学的スタンスは、次の言葉が最も近いでしょう。

「体のストレスを軽減し、回復を助ける可能性のある“補助療法”。
 本格医療の代わりではなく、サポートとして有望。」

特に、次のような方に向いていると考えられています:

✔ 疲労や慢性炎症を感じる方
✔ 運動や治療後の回復を早めたい方
✔ 呼吸機能が落ちている方
✔ 健康維持やエイジングケアを意識している方

 

当院の考え方

当院では、水素吸入療法を

  • 科学的根拠に基づき
  • 過度な期待ではなく
  • 安全性と品質を確認し
  • 個々の健康状態や目的に合わせて

提供していきます。

水素吸入は「魔法」ではありません。
しかし、身体の負担を軽減し、自分の治癒力を支える1つの選択肢になり得ます。

今後の研究により、その可能性はさらに広がるでしょう。

 

最後に

水素医療は今まさに研究が進む領域です。
私たちは最新の科学と実際の臨床経験をもとに、安全に、そして正しく導入していきます。

 

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。