アトピー性皮膚炎に関する連載コラム⑤
2025年国際総説が示す
“新しい皮膚病理解”
〜 アトピー性皮膚炎・乾癬・白斑は
「ミトコンドリアの恒常性破綻」から始まる 〜
これまで、アトピー性皮膚炎(AD)や乾癬、白斑といった皮膚疾患は、
「免疫の暴走」
「皮膚バリアの破綻」
という視点で語られてきました。
もちろんこれらは間違いではありません。
しかし、2025年に発表された国際総説(Biomedicine & Pharmacotherapy)は、
これらの疾患に共通する“もうひとつの根源”を世界の皮膚科学の文脈で整理しています。
その核心は、
👉 ミトコンドリアの恒常性(mitochondrial homeostasis)が破綻するという視点です。
このコラムでは、
その内容をやさしく、しかし医学的に正確にお伝えします。
✔ ミトコンドリアとは何か?
まず押さえておきたいのは、
ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場であるだけでなく、
細胞の正常な機能・免疫制御・ストレス応答を統合する司令塔である
という点です。
皮膚は毎日再生し、外界刺激と戦い、免疫反応を展開します。
そのすべてにエネルギーと制御システムが不可欠であり、
それこそがミトコンドリアの役割です。
✔ 2025年総説がポイントにした「皮膚疾患の共通機序」
国際総説では、次の5つの要素が
皮膚疾患全般の根本病態として共通する
と整理されています。
① ミトコンドリア由来の酸化ストレス(mtROS)
ミトコンドリアは正常でも酸化ストレスを発生しますが、
恒常性が破綻すると
過剰なROS(活性酸素)が産生され、炎症のスイッチが入りやすくなる
と説明されます。
これは単なる「炎症後の副次現象」ではなく、
炎症を開始させる主因子です。
② 遊離ミトコンドリアDNA(mtDNA)の放出と免疫活性化
細胞がストレス下にあると、
ミトコンドリア由来のDNAが細胞外に放出され、
免疫センサー(例:TLR9)を刺激します。
この反応は、
アトピー性皮膚炎や乾癬で
「慢性炎症が止まらない理由」を説明する鍵です。
③ ミトコンドリアダイナミクスの乱れ
ミトコンドリアは
分裂(fission)と融合(fusion)を繰り返し、
ネットワークを維持しますが、これが破綻すると、
ROS産生が増え、細胞のエネルギー効率が落ちます。
この“形の異常”が、
炎症を促進し、組織の機能を低下させます。
④ エネルギー産生の低下
皮膚細胞は常に再生を続けています。
そのため、ATP(細胞のエネルギー)が必須です。
ミトコンドリア機能が低下すると、
皮膚バリア形成や創傷治癒がうまくいかなくなり、
症状の慢性化につながります。
⑤ 抗酸化応答の喪失
正常なミトコンドリアは酸化ストレスに対応する抗酸化システムを持ちます。
これが破綻すると、
炎症が長引き、再発しやすい状態が固定化してしまいます。
✔ なぜこれが「革命」なのか?
これまでの理解は、
皮膚疾患 = 免疫の暴走 = 抗炎症治療
という等式に基づいていました。
一方、総説はこう指摘します:
皮膚疾患の根本には
「ミトコンドリア恒常性の破綻がある」
というパラダイムです。
実際にPubMedでも、
ミトコンドリアROSの増加、
内因性DNAの放出、
免疫シグナルの活性化、
エネルギー代謝の破綻が、
アトピー性皮膚炎・乾癬・白斑の共通病態として報告されています。
✔ 日常診療へのインパクト
この総説が示す新しい病態は、
すぐに治療ガイドラインを変えるものではありません。
しかし、次のような思考を可能にします:
✔ 炎症だけでなく
その“背景”で何が起きているのかを見る
✔ 体質改善・代謝改善の根拠として
ミトコンドリア機能を考える
✔ 再燃を防ぐ戦略として
炎症制御だけでなく基盤回復を意識する
つまり、
治療の構造が「抑える医療」→「支える医療」へ進化する
ことが期待されます。
✔ 当院の視点:ミトコンドリアを支える治療
当院では、この総説に示された視点を踏まえ、
- 酸化ストレス制御(例:高濃度水素)
- 免疫・エネルギー代謝改善(例:NMN)
- バリア形成支援(例:5-ALA)
を 標準治療の補完として提案しています。
これは決して標準治療の代わりではなく、
再燃しにくい体づくりのための補完戦略です。
✔ 最後に
2025年国際総説が示す「皮膚病の新理解」は、
炎症だけでなくその背景にある
細胞エネルギーの制御と代謝の異常を
正しく捉えることの重要性を教えてくれています。
この視点は、
これからの皮膚科学・免疫学・抗加齢医療の
共通言語になる可能性があります。
一歩先の医療を目指す皆さまにとって、
この新しい理解が診療のヒントになれば幸いです。
✦ 監修
聚楽内科クリニック
院長 武本 重毅
アンチエイジング3本の矢® 提唱者

