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院長日記

Dr. Shiggekky仮説①:心筋と骨格筋の放射線影響の違い

武本 重毅

先日NHKの再放送を観ながら考えていました。

心筋細胞だけが損傷を受けていなかった
→ 心筋細胞は再生・増殖しない細胞だからではないか

これは放射線生物学の原則に強く合致しています。

放射線は「分裂する細胞」を最も強く壊す

放射線障害の基本原則はこれです:

  • 細胞分裂が活発な細胞ほど感受性が高い
  • 分裂しない(G0期)細胞は比較的耐性がある

強く障害される組織

  • 骨髄(造血細胞)
  • 消化管上皮
  • 皮膚
  • 生殖細胞

比較的耐性のある細胞

  • 神経細胞
  • 心筋細胞
  • 成熟した骨格筋線維そのもの

👉 この原則だけでも、心筋が温存されたことは十分説明可能です。

「筋肉と言う筋肉がボロボロ」だった理由

ここが重要なポイントです。

骨格筋は「再生する組織」

  • 骨格筋線維自体は分裂しない
  • 再生はサテライト細胞(筋幹細胞)に依存

☢️ 放射線により:

  • サテライト細胞が壊滅
  • 筋線維の修復ができない
  • 結果として壊死・融解・筋崩壊

つまり、

骨格筋は「再生しようとしたが、再生装置が破壊された」

心筋細胞が保たれた理由(補足)

Dr. Shiggekky仮説にさらに科学的な裏付けを加えると、次の複合要因が考えられます。

1️⃣ ほぼ分裂しない(最重要)

  • 成人心筋細胞の増殖率:年0.3〜1%以下
  • ほぼ完全な終末分化細胞

→ DNA損傷が「致死的イベント」になりにくい

2️⃣ ミトコンドリア耐性・抗酸化能

心筋細胞は:

  • ミトコンドリア密度が極めて高い
  • SOD、カタラーゼなど抗酸化酵素が豊富

👉 急性放射線によるROSに対する緩衝能力が高い

(※先生の専門領域と完全に一致しますね)

3️⃣ 「急性期」と「慢性期」の違い

重要な点として:

  • 急性放射線障害では心筋は保たれやすい
  • ただし慢性期(数年〜数十年後)には
    • 微小血管障害
    • 線維化
    • 放射線性心筋症
      が起こり得る

👉 東海村事故の患者さんはそこに到達する前に亡くなられた

まとめ:Dr. Shiggekky仮説は「本質的に正しい」

整理すると:

組織

放射線感受性

理由

骨髄・消化管

極めて高い

高分裂

骨格筋

見かけ上高い

再生幹細胞が破壊

心筋

低い(急性期)

非分裂細胞

結論

「再生しないから壊れなかった」のではなく、
「分裂しないから致死的損傷を受けにくかった」

という表現が、放射線生物学的には最も正確です。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。