昨年末好評だったCareNetオンラインセミナー講義録
「水素は“ただの抗酸化”ではない
― 炎症・ミトコンドリア・老化制御の新視点 ―」
武本重毅(Dr. Shiggekky)
(聚楽内科クリニック 院長/医学博士)
はじめに
老化は「避けられない運命」なのか?
私たちは長い間、
老化は自然現象であり、医療の対象ではない
と教えられてきました。
しかし今、その前提が大きく揺らいでいます。
NIHやFDAが示す新しい考え方では、
老化は「修正可能なリスク因子」
すなわち 治療・予防の対象 として捉えられ始めています。
その科学的基盤となっているのが、
エピゲノム(DNAメチル化)による生物学的年齢評価です。
第1章
老化とは「時間」ではなく「エラーの蓄積」である
老化とは何でしょうか。
私は、老化を
「細胞の読み取りエラーの蓄積」
と考えています。
DNA配列そのものは変わらなくても、
- DNAメチル化の乱れ
- ヒストン修飾の異常
- 遺伝子発現の誤作動
こうした エピジェネティックな乱れ が蓄積すると、
細胞は「本来の若い設計図」を正しく読めなくなります。
2025年にDavid Sinclair博士の研究が示した
「細胞を若返らせる技術」は、
まさにこの 読み取りエラーのリセット を意味しています。
第2章
老化の本丸はミトコンドリアにある
では、そのエラーはどこから始まるのか。
答えは明確です。
ミトコンドリアです。
1つの細胞に数百〜数千存在するミトコンドリアは、
- ATP産生(エネルギー)
- ROS産生(活性酸素)
- 細胞死・炎症・免疫制御
すべての中枢を担っています。
ミトコンドリアが弱ると、
- エネルギー不足
- ROSの過剰蓄積
- DNA損傷
- 慢性炎症
が連鎖的に起こり、
それが 老化の共通メカニズム となります。
第3章
私が提唱する「アンチエイジング3本の矢®」
このミトコンドリアを立て直すために、
私は 3つの介入を統合した戦略 を提唱してきました。
① NMN(NAD⁺前駆体)
- NAD⁺を補充
- ATP産生を回復
- SIRT1/3を活性化しミトコンドリア品質を改善
② 5-ALA(ヘム合成促進)
- ヘム → シトクロム → 電子伝達系を再構築
- 特に複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ)を強化
- ROS発生を抑制
③ 水素吸入(分子状水素)
- ヒドロキシルラジカル(•OH)を選択的に消去
- ミトコンドリア膜障害を防ぐ
- 炎症と酸化ストレスを同時に抑制
重要なのは、
これらは単独ではなく、相補的に働く という点です。
第4章
水素医学の本質
― なぜ「ただの抗酸化」ではないのか
2007年、太田成男先生らは
Nature Medicine において、
水素(H₂)が
- •OH
- ONOO⁻
という 最凶クラスのROSを選択的に消去 することを示しました。
ここが決定的に重要です。
- SODやカタラーゼでは •OH は処理できない
- •OH は寿命が短いが、破壊力はスーパーオキシドの約100倍
水素だけが、このROSを“選んで”消せる。
さらに水素は、
- Nrf2活性化
- 抗炎症遺伝子の誘導
- 抗アポトーシス作用
といった 間接的作用 を通じて、
- ミトコンドリア膜電位(MMP)維持
- ATP産生維持
- mtROS抑制
- シトクロムc放出抑制
へとつながっていきます。
第5章
臨床エビデンスの可視化
― エピクロック®︎の意義
私たちは今、
「効いた気がする医療」から
「測って示せる医療」 の時代に入っています。
当院では、
- 酸化ストレス(d-ROMs, 8-OHdG)
- 炎症(CRP, IL-6)
- 糖化(HbA1c, AGEs)
- そして DNAメチル化解析(エピクロック®︎)
を組み合わせて評価しています。
第6章
実際の症例が示すもの
2025年7月に実施したエピクロック®︎検査では、
- 水素単独
- NMN+5-ALA+水素
いずれの症例でも、
- 生物学的年齢の若返り
- Aging Pace(老化スピード)の低下
が確認されました。
特に3本の矢を併用した症例では、
年齢ギャップ −9.9歳 という結果も得られています。
これは偶然ではありません。
第7章
水素吸入療法の実際
当院では、
- 30分〜1時間
- 可能であれば毎日
という現実的なプロトコールを推奨しています。
理論上の吸入水素濃度は最大約4%。
これは 安全性が確立された範囲 です。
重要なのは「完璧」ではなく
「継続できる現実解」 です。
おわりに
老化は「治せる」時代へ
水素は魔法ではありません。
しかし、
- ミトコンドリア
- 炎症
- 酸化ストレス
- エピゲノム
これらを 一点で結び直す分子 であることは、
もはや疑いようがありません。
私はこれからも、
老化は避けるものではない
理解し、制御するものである
という立場から、
臨床と研究を続けていきたいと思っています。

