Director's blog
院長日記

GLP-1受容体作動薬は「体重を減らす薬」ではあるが、「代謝能力を再建する治療ではない」

武本 重毅

カテゴリー: 

① 論文の核心(Lancet eClinicalMedicine, 2025)

結論を一言で

GLP-1受容体作動薬は「体重を減らす薬」ではあるが、「代謝能力を再建する治療ではない」

中止すると:

  • 体重は大部分がリバウンド

  • インスリン感受性・脂質・血糖などの代謝改善効果も消失

  • 多くの人が開始前、あるいはそれ以上に戻る

👉 事実上「慢性治療(lifelong therapy)」になる

② なぜリバウンドが起きるのか(生理学的本質)

GLP-1作動薬がしていることは:

  • 食欲抑制

  • 胃排出遅延

  • 中枢報酬系の抑制

つまり

「入ってくるエネルギーを減らしているだけ」

❌ できていないこと:

  • ミトコンドリア量の増加

  • 酸化的リン酸化能力の回復

  • 筋量・基礎代謝の再建

  • エネルギーフラックス(回転量)の回復

その結果👇

代謝“余力”のない身体で薬をやめる

→ 生体防御として体重が戻る

これは「失敗」ではなく

生理学的に正しい反応です。

③ 特に問題になる集団

本来の適応

  • 肥満

  • 2型糖尿病

  • 高心血管リスク

👉 ベネフィットが明確

問題視されている使用

  • 健康だが「少し太っている」

  • 美容目的

  • 運動・筋トレをしない

  • タンパク摂取が少ない

👉 この場合:

  • 除脂肪量(筋肉)減少

  • 低エネルギーフラックス

  • フレイル・サルコペニア加速

  • 高齢期の転倒・要介護リスク増大

④ 「GLP-1は代謝を良くするが、代謝を作らない」

論文中の最重要フレーズ(意訳)

GLP-1 agonists improve metabolic control, but they do not rebuild metabolic capacity.

これはDr. Shiggekky の言葉に置き換えると:

「数字は良くするが、細胞は若返らない」

⑤ 「アンチエイジング3本の矢®」との決定的な違い

視点 GLP-1単独 3本の矢®
食欲 抑える 調整
体重 減る 再構成
筋肉 減りやすい 維持・回復
ミトコンドリア 増えない 活性化
中止後 リバウンド 自立可能
本質 対症療法 代謝治療

特に:

  • NMN:NAD⁺回復 → ミトコンドリア機能

  • 5-ALA:ヘム合成 → 電子伝達系

  • 水素:酸化ストレス制御

👉 「薬に依存しない代謝基盤」を作る思想

⑥ 臨床メッセージ

GLP-1はとても強力な薬です。

ただし、始めるということは

「長期、場合によっては一生使う治療」になる可能性が高い

ということを、最初に理解していただく必要があります。

だから当院では

  • 薬だけで終わらせない

  • ミトコンドリア・筋肉・代謝能力を同時に育てる

  • 将来的に「薬を減らせる身体」を目指す

⑦ まとめ

GLP-1は“ブレーキ”。

だが、老化医療に必要なのは“エンジンの再生”である。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。