Director's blog
院長日記

ミトコンドリアDNAを書き換える新技術

武本 重毅

「OpenABE」と「TALED」が切り開く未来

近年、

「遺伝子編集」

という言葉を耳にする機会が増えました。

病気の原因となる遺伝子を、

直接修正する

という新しい医療です。

しかし、

ミトコンドリアDNAだけは、

長い間、

編集が非常に難しい

と考えられてきました。


なぜ難しかったのでしょう?

私たちの細胞には、

  • 核DNA
  • ミトコンドリアDNA

という2種類の設計図があります。

現在、

核DNAはCRISPRなどの技術で編集できます。

ところが、

ミトコンドリアの中へは、

CRISPRが利用する

ガイドRNA

を運ぶことができません。

そのため、

ミトコンドリアDNAだけは、

“編集できない遺伝子”

と言われてきました。


OpenABEは「職人」

今回開発された

OpenABE

は、

DNAの中の

A(アデニン)

を

G(グアニン)

へ書き換えることができる

非常に優れた塩基編集酵素です。

しかし、

OpenABEだけでは

どこを編集すればよいか

分かりません。

つまり、

優秀な職人でも、

住所が分からなければ仕事はできないのです。


TALEDは「ナビゲーション」

そこで登場するのが

TALED

です。

TALEDは、

目的となるDNA配列を正確に見つける

“ナビゲーション”

の役割を果たします。

つまり、

TALEDが目的地を見つけ、OpenABEがそこで塩基を書き換える

という仕組みです。


2つを組み合わせて初めて実現

今回の研究では、

OpenABEとTALEDを組み合わせることで、

ミトコンドリアDNAの

A→G塩基編集

に成功しました。

しかも、

従来法と同等、あるいは一部ではそれ以上の編集効率が得られたことも示されています。


私たちが注目したポイント

今回の研究の本当の価値は、

「編集酵素」

ではありません。

重要なのは、

編集酵素と標的認識技術を組み合わせることで、これまで難しかったミトコンドリアDNA編集を実現した

ことです。

つまり、

ミトコンドリア研究は、

単に機能を支える時代から、

遺伝情報そのものを修復する時代

へ進み始めています。


MITO RISINGとの接点

MITO RISINGでは、

老化を

「回復力(Recovery Capacity)の低下」

として考えています。

現在の医療では、

  • ミトコンドリア機能を支える
  • エネルギー代謝を改善する
  • 酸化ストレスを抑える

ことが中心です。

一方で、

今回のような技術は、

ミトコンドリアDNAそのものを修復する

という、

さらに未来の医療を示しています。

支える医療と、

修復する医療。

この二つは対立するものではなく、

将来は互いに補い合いながら発展していくと考えられます。


未来の医療へ

今回の研究は、

まだ研究段階の技術です。

すぐに臨床で利用できるわけではありません。

しかし、

「編集できなかったミトコンドリアDNAを編集できるようになった」

という事実は、

ミトコンドリア病だけでなく、

将来的には加齢や神経変性疾患などへの応用につながる可能性を秘めています。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。