Director's blog
院長日記

人類の現在、そして未来のしごと   21 Lessons(ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田裕之訳)

武本 重毅

20世紀の幕が下りる頃

ファシズムと共産主義と自由主義のイデオロギー上の激しい戦いは

自由主義の圧勝に終わったかに見えました。

 

民主政治、人権、自由市場資本主義が

全世界を制覇することを運命づけられているように思えました。

 

だが例によって

歴史は意外な展開をみせ

ファシズムと共産主義が崩壊した後

今度は自由主義が窮地に陥っています。

 

情報テクノロジー(IT)とバイオテクノロジーにおける双子の革命が

融合することで

間もなく何十億もの人が雇用市場から排除され、自由と平等の両方が損なわれかねません。

 

あなたが大人になったときには、仕事がないかもしれないのです。

 

 

主に既知の病気を診断し

お馴染みの治療をしている一般開業医は

おそらくAI(人工知能)医師にとって代わられるでしょう。

 

 

確かにAIは

人間の新しい仕事の創出を後押しできるかもしれません。

 

とはいえ

こうした新しい仕事はみな、一つ問題を抱えています。

 

おそらく

高度な専門技術や知識が求められ

したがって

非熟練労働者の失業問題を解決できないのです。

 

過去に自動化の波が押し寄せたときには

人々はたいてい

それまでやっていた、高度な技能を必要とせず

同じことを繰り返し行う仕事から

別の、やはり単純な仕事に移ることができました。

 

1920年に農業の機械化で解雇された農業労働者は

トラクター製造工場で新しい仕事を見つけられました。

 

1980年に失業した工場労働者は

スーパーマーケットでレジ係として働き始めることができました。

 

そのような転職が可能だったのは

農業から工業へ

工場からスーパーマーケットへという移動には、

限られた訓練しか必要なかったからです。

 

だが2050年には

ロボットに仕事を奪われたレジ係や繊維労働者が

がん研究者や

ドローン操縦士や

人間とAIの銀行業務チームのメンバーとして

働き始めることはほぼ不可能でしょう。

 

したがって

人間のための新しい仕事が出てきても

高い失業率と熟練労働者の不足という、二重苦に陥りかねません。

 

そのうえ

 

残っている人間の仕事も

将来の自動化の驚異をいつまでも免れる保証はありません。

 

なぜなら

機械学習とロボット工学は進歩し続けるからです。

 

スーパーマーケットのレジ係の職を失った40歳の人が

超人的な努力をしてドローン操縦士になれたとしても

 

その10年後には

再び新たな技能を身につけなくてはならないかもしれません。

 

したがって

 

新しい仕事を創出し

人間を再訓練してその仕事に就かせるのは

一度限りの取り組みでは済まされません。

 

AI革命は

それが過ぎれば雇用市場が

あっさりと新たな均衡状態に落ち着くような

転換期にあたる単一の出来事ではありません。

 

むしろ

 

次第に大きな混乱がおこる

連鎖反応のようなものになるでしょう。

 

すでに今日

 

一生にわたって

同じ職業で働くと思っている勤め人は

ほとんどいません。

 

2050年には

 

「終身雇用」という考え方ばかりでなく

 

「一生の仕事」という考え方さえ

 

 

時代遅れに思えるかもしれません。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。