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院長日記

10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣(後半)

武本 重毅

ファクトフルネス(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著/上杉周作、関美和訳)

 

今年もまた、

おしゃれでこじんまりとしたスイスの街ダボスで、

世界経済フォーラムが開催されています。

 

ことしは自然環境についての議論に加え、

新型コロナウイルスによる肺炎への対策への懸念が広がっているようです。

 

 

そのダボスで

筆者は、ひとつの結論にたどり着きました。

瞬時に何かを判断する本能と、

ドラマチックな物語を求める本能が、

「ドラマチックすぎる世界の見方」と、世界についての誤解を生んでいると。

 

 

わたしたちはみな、ドラマチックな10種類の本能を持っています。

昨日につづき、本日は、その6~10をみてみましょう。

 

 

6. パターン化本能
「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み

人間はいつも、

何も考えずに物事をパターン化し、

それをすべてに当てはめてしまうものです。

 

しかも無意識にやってしまいます。

 

人が生きていく上で、パターン化は欠かせません。

それが思考の枠組みになります。

この本で紹介しているほかの思い込みと同じように、

生活に役立つはずのパターン化もまた、

わたしたち世界の見方を歪めてしまうことがあります。

 

実際にはまったく異なる物や、

人や、

国を、

間違ってひとつのグループに入れてしまうのです。

 

そして、

同じグループの物や人は

すべて似通っていると思い込んでしまいます。

 

しかも、残念なことに、

ほんの少数の例や、

ひとつだけの例外的な事柄に基づいて

グループ全体の特徴を勝手に決めつけてしまいます。

 

ある分類を

たくさんの人が間違いだと気づくと、

それはステレオタイプと呼ばれるようになります。

 

たとえば、

人種や性別で

異なる人をひとくくりにまとめることがそうです。

 

こうしたステレオタイプは

多くの深刻な問題を引き起こしますが、

 

問題はそれだけではありません。

 

 

間違ったパターン化は

思考停止につながり、

あらゆる物事への理解を妨げてしまいます。

 

「世界は分断されている」という思い込みは、

 

「わたしたち」は「あの人たち」と違うという勘違いを生みます。

 

一方

「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込みは、

「あの人たち」はみな同じだという勘違いを生みます。

 

日常生活にパターン化は欠かせません。

だから、分類は必要です。

 

大事なのは、間違った分類に気づき、

より適切な分類に置き換えることです。

 

認識を切り替えるには、

できるだけたくさん旅をすることです。

 

何事も自分が身をもって経験するのがいちばんなのです。

 

他国の現実に触れて

初めて、

自国の常識が他国でも適用すると思い込むことが、

役に立たないばかりか

危険でさえあることに気づくことができます。

 

人々の暮らしぶりにいちばん大きな影響を与えている原因は

宗教でも文化でも国でもなく、

収入だということは一目瞭然です。

 

同じ例が当てはまらない集団を

いっしょくたんにしないよう、

わたしたちはできる限り気を配らなければなりません。

 

そして一見筋が通っているように見える、

隠れたパターン化の間違いを

見つけ出すよう努めなければなりません。

 

 

7. 宿命本能
「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み

人間は昔から、

あまり変化のない環境で暮らすことを選んできました。

 

違う環境に次々と自分を合わせるよりも、

同じ環境に慣れ、

それが続くと考える方が

生き残りには適していたのでしょう。

 

それに、

集団が特別な宿命を持っていると訴えれば

団結しやすいし、

ほかの集団に対して優越感も感じられる。

 

だから、

種族や部族、

国家、

帝国

の力を強めるために、

宿命論は役に立ちました。

 

でもいまの時代、

物事が変わらないと思い込み、

新しい知識を取り入れることを拒めば、

社会の劇的な変化が見えなくなってしまいます。

 

社会と文化は

岩のように動かないものではありません。

 

社会も文化も変わっていきます。

 

西洋の社会と文化は変わり、

西洋以外の社会と文化も変わります。

 

西洋以外の変化のスピードは

西洋よりもはるかに速い。

 

インターネットやスマートフォンやソーシャルメディアの普及

といった急激な変化に比べると、

 

社会や文化の動きはゆっくりなので

気づかれないか、

ニュースにならないだけです。

 

もちろん、

アフリカ大陸全体を見れば、

ほかの大陸より遅れています。

 

現在アフリカで生まれる新生児の平均寿命は65歳です。

西洋と比べると17歳も差があります。

 

だが、

ご存知の通り平均は誤解を生みやすいし、

アフリカの中でも途方もなく大きな違いがあります。

 

アフリカの国がすべて、

世界に遅れているわけではありません。

 

たとえば、

チュニジア、アルジェリア、モロッコ、リビア、エジプトに注目してみましょう。

この5カ国の平均寿命は世界平均の72歳を上回っています。

 

サハラ以南のアフリカ諸国は、

この60年のあいだに植民地から独立国家になりました。

その過程で、

ヨーロッパ諸国がかつて奇跡の発展を遂げたのと同じ着実なスピードで、

アフリカの国々も教育、電力、水道、衛生設備を拡充してきました。

しかも、サハラ以南の50カ国はいずれも、スウェーデンより早いペースで乳幼児の死亡率を改善させました。

 

西洋の発展が

当然このまま続くと思い込んでしまうのもまた、

宿命本能のなせるわざです。

それに、

いまの西洋の経済的な停滞が一時的なもので、

またすぐに回復するだろうという思い込みもそうです。

 

(最近話題のイランについても記述があります)

イランで寿命が延びていることと

女性ひとりあたりの子どもの数が減っていることをご存知でしょうか。

 

実際、

1984年に6人を超えていた女性ひとりあたりの子どもの数は、

わずか15年で3人を切るまでになっていました。

それは、どんな国も果たせなかったほど急速な進歩でした。

 

1990年代、イランには世界最大のコンドーム工場があり、

結婚前の花嫁と花婿の両方に性教育を義務化していました。

国民の教育レベルは高く、

進んだ公的医療制度が人々に開かれていました。

カップルはきちんと避妊して子どもの数を抑え、

子どもができない場合には不妊治療も受けることができました。

 

避妊を禁ずる宗教は多い。

だから信仰心の厚い女性は子どもの数が多いと思い込んでしまうのは、

わからなくはありません。

だが、

宗教と女性ひとりあたりの子どもの数には、

それほど関連がありません。

 

むしろ、子どもの数と強く関連するのは所得なのです。

 

宿命本能を抑えるためには、

最新のデータを積極的に取り入れて、

知識をいつも新鮮に保つよう心がけないといけません。

 

 

8. 単純化本能
「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み

シンプルなものの見方に、

わたしたちは惹かれます。

 

賢い考えがパッとひらめくと興奮するし、

わかった!

理解できた!

と感じられるとうれしいものです。

 

すべての問題がひとつのやり方で解決できる

と思い込むこともあります。

 

そう考えれば、

なにもかもシンプルになります。

 

でもここに、

ひとつちょっとした問題があります。

 

それでは世界をとんでもなく誤解してしまいます。

 

たとえば、

「自由市場」と言えばシンプルで美しい概念に思えますが、

それだけを信じ込めば、

世界をひとつの切り口でしか見られなくなってしまいます。

 

すべての問題の元凶は

政府の介入にある、

と考えてしまいます。

 

だから、

減税も規制緩和もかならず支持しなければならない、

と決めつけることになります。

 

そんなふうに

世界をただひとつの切り口で見れば、

あれこれ悩まずにすむし、

時間の節約にもなります。

 

問題の本質を

いちから学ばなくてもはなから答えは出ているし、

その分ほかのことに頭を使えます。

 

でも、

世界を本当に理解しようと思ったら、

このやり方は役に立ちません。

 

むしろ、

自分が肩入れしている考え方の

弱みを

いつも探した方がいいのです。

 

自分の意見に合わない

新しい情報や、

専門以外の情報を進んで入れましょう。

 

「子どもにトンカチを持たせると、なんでも釘に見える」

ということわざがあります。

 

医師は、

予防に力を注いだ方がいい場合にも

治療を勧めてしまうことがあるようです。

 

専門知識が邪魔すると、

実際に効果のある解決法が見えなくなります。

 

さまざまな角度から世界を見るようにしましょう。

 

 

9. 犯人捜し本能
「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み

物事がうまくいかないと、

誰かがわざと悪いことを仕組んだように思いがちです。

 

誰かを責めたいという本能から、

事実に基づいて本当の世界を見ることが

できなくなってしまいます。

 

誰かを責めることに気持ちが向くと、

学びが止まります。

 

世界の深刻な問題を理解するためには、

問題を引き起こすシステムを見直さないといけません。

 

もし本当に世界を変えたいのなら、

肝に銘じておきましょう。

 

犯人捜し本能は役に立たないと。

 

 

10. 焦り本能
「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

(これは、いま世界を騒がせている新型コロナウイルスによる肺炎対策にも通じるところがあります)

恐れが広がり、

噂が噂を呼ぶ中で、

焦りに任せて過激な手を打っても

効果はありません。

 

恐れに支配され、

時間に追われて

最悪のケースが頭に浮かぶと、

人は愚かな判断をしてしまいます。

 

一刻も早く手を打たなければ

という焦りから、

冷静に分析する力が失われてしまうのです。

 

いまやらないと、

もう次はない! 

 

それが焦り本能を引き出すコツです。

 

いますぐ決めろとせかされると、

批判的に考える力が失われ、

拙速に判断して行動してしまいます。

 

 

ひと息つきましょう。

 

そんな口車に乗ってはいけません。

 

いまじゃないとダメ

 

なんてことはありませんし、

 

チャンスは一度きりではありません。

 

必要なのは

 

総合的な分析と、

考え抜いた決断と、

段階的な行動と、

慎重な評価なのです。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。