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院長日記

熊本市医師会看護専門学校講義 2020年7月16日 「血液・造血器」各論

武本 重毅

カテゴリー: 

本日は、パワーポイントで写真など見ながら、いくつかの疾患やその治療について詳しく学びましょう。

前回お話しましたように

血液には、大きく分けて、赤血球、白血球、血小板という3種類の血液細胞があり

その全てが造血幹細胞という1個の細胞から生まれてきます。

その造血の場所は、骨髄であり

特に成人では、頭蓋骨、胸骨、肋骨、椎骨、骨盤、大腿骨など体幹部に限られてきます。

今回は、造血器腫瘍、白血病、悪性リンパ腫や出血性疾患について話し

私が20年以上研究していた成人T細胞白血病(ATL)のことや

私が国立病院機構熊本医療センターに在籍した12年間で、おこなった造血器幹細胞移植

そして国際協力機構(JICA)の研修コースリーダーとして携わっていたエイズについても紹介したいと思います。

 

 

白血球について

まずは、白血球に焦点をあてて、その中身を復習してみましょう。

白血球は、骨髄系をリンパ系に分かれます。

血液中で一番多いのが好中球で、顆粒球に分類されます。

顆粒球には、その他に好酸球と好塩基球があります。

単球は最も大きな血液細胞です。

そして、今日の話のメインとなるリンパ球には

B細胞とT細胞、そしてNK(ナチュラル・キラー)細胞があります。

 

写真で実際の像を見ないと理解できないと思い、顆粒球の写真をもってきました。

背景にたくさん写っているのが赤血球です。

核がなくて、中央が透けて見えます。

赤いのはヘモグロビンです。

そして、ゴミみたいに小さく写っているのが血小板です。

赤血球の直径が7μmくらいですから

顆粒球はどれも、その2倍くらいの大きさですね。

好中球の核は

もっと未熟(若い)だと混棒状なのですが

その後、分葉して、2核、3核と分れていきます。

肺炎など細菌感染で増加し、直接貪食し除去します。

いわゆる自然免疫を担当しています。

好酸球は

細胞質内に赤い大きな顆粒が充満しています。

寄生虫を除去し、アレルギー性鼻炎などのアレルギー反応に関与します。

好塩基球の場合は

細胞質に紫色の顆粒があります。

IgEという抗体が重要なはたらきをする即時型(I型)アレルギーに関与します。

 

 

血液細胞

さて全体をもう一度まとめてみると

骨髄の中にある微小環境内で

多能性造血幹細胞から、リンパ系前駆細胞と骨髄系前駆細胞に分れ

先ほど示した好中球、好酸球、好塩基球、赤血球、血小板が血中に出て

そして単球は

数日後には組織へ移行してマクロファージに変化します。

 

さらには、リンパ球として、自然免疫を担当する

つまり異物や病原体には何でも攻撃するNK細胞があり

 

他方、ある特定の抗原(病原体の一部)を認識して攻撃する

すなわち獲得免疫を担当するT細胞とB細胞があります。

B細胞は抗体をつくる形質細胞へと姿を変えると

通常存在する血液・リンパ節・脾臓ではなく、骨髄に移動します。

 

 

いかにして抗体はつくられるか

今、世界では

新型コロナウイルス(COVID-19)に対するワクチン開発を急いでいますが

その抗体ができるまでには、次のようなプロセスが必要です。

 

投与された異物を樹状細胞やマクロファージなど抗原提示細胞が貪食して

 

その抗原部位をヘルパーT細胞に提示し

 

その情報をヘルパーT細胞がB細胞に伝えることで

 

活性化したB細胞に遺伝子再構成がおこり

ある特定の抗原に反応する抗体を産生するようになります。

 

ウイルスの種類によって異なりますが、抗体産生までの期間は、数週間から数ヶ月かかります。

 

 

免疫反応が正常にはたらくとは限らない

しかし

必ずしも、その抗体や免疫反応が

うまくはたらくとは限りません。

 

ここに、免疫異常の4つのパターンを示します。

 

まず、外来抗原

つまり身体の外から入ってきた異物に対して

その免疫反応が過剰な場合と反応が十分でない場合を考えてみると

 

その代表は、過剰な場合はアレルギーであり

 

反応できない場合に病原菌が増えて感染症ということになります。

 

さらに

本来であれば

身体の内部に、つまり自分自身の組織や細胞に対して免疫反応はおこらないのですが

 

過剰におこる場合があり

それは自己免疫疾患といわれるものであり

 

自分の細胞の一部が暴走をはじめ

これを抑えることが出来ない場合が

悪性腫瘍、すなわち、「がん」と考えられます。

 

 

白血病とリンパ腫のちがい

さて、ここで

同じリンパ球の悪性腫瘍なのに

白血病とリンパ腫ではどの様にちがうのかをみてみましょう。

 

白血病というのは

骨髄性白血病でも同様ですが

増殖の場が、主に骨髄です。

ここではシンプルにそう覚えておいてください。

 

一方

リンパ腫細胞が増えるのは、主にリンパ節です。

 

つまり

リンパ球が前駆細胞から成熟していく過程において

より未熟な段階でがん化したのが白血病

より成熟した段階でがん化するのが悪性リンパ腫なのです。

 

ただ成熟したB細胞ならびにT細胞腫瘍の特殊な例として

 

B細胞の場合は多発性骨髄腫があり

これは形質細胞まで進化してがん化し骨髄の中で増殖しますし

 

T細胞の場合は

九州に多いウイルス感染でおこる成人T細胞白血病(ATL)という疾患があり

成熟したT細胞腫瘍が白血病みたいに血液中でも増加しています。

 

 

リンパ節腫脹と悪性リンパ腫

前回の授業で骨髄の話をしました。

今回はリンパ節についてみてみましょう。

リンパ節だけでなく

扁桃や胸腺や脾臓もリンパ系組織であり

 

頭の先からつま先まで、500個もあります。

 

そのどこからでもリンパ腫を発症します。

 

表在リンパの頚部などは触ってわかりやすいのですが

縦隔や腹腔内のリンパ節腫脹は

造影CT検査などではじめて検出することになります。

 

表在リンパ節は

感染症によるリンパ節腫脹とリンパ腫やがんによる腫脹を

触診して鑑別することができます。

 

一般的には

リンパ腫では弾性硬で表面は平滑、圧痛はありません。

がんの転移では、硬く、表面は平滑か凹凸があり、これも圧痛はありません。

 

手術対象のがんとは少しちがうのですが

悪性リンパ腫でも病期分類があり

それにより治療方針や予後が異なります。

 

どこか一つのリンパ節領域に限局しているのをステージI

横隔膜の片側で複数のリンパ節腫脹みられればステージII

横隔膜の両側にあればステージIII

肝臓や脾臓、血液中にリンパ腫細胞があればステージIVです。

 

 

悪性リンパ腫の臨床的悪性度

さらには、悪性度による分類も覚えておきましょう。

 

治療しなくても何年か生存を期待できる

低悪性度リンパ腫としては

濾胞性リンパ腫やマントル細胞リンパ腫があります。

 

無治療での生存期間は何ヶ月かですが

化学療法がよく効き

日本人で最も多いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫

中悪性度リンパ腫の代表格です。

 

そして

バーキットリンパ腫や九州に多い成人T細胞白血病(ATL)

すぐに治療を始めなければ、数日で命を落とすことがあります。

 

 

ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫

悪性リンパ腫には

大きく分けて

ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫があります。

 

欧米に比べて日本ではホジキンリンパ腫が少なく

ほとんどが非ホジキンリンパ腫です。

 

何人かホジキンリンパ腫の患者を治療しましたが

皆、若いですね。

 

高齢化の進む日本では、非ホジキンリンパ腫患者が増えています。

 

 

悪性リンパ腫の診断

悪性リンパ腫の診断は

リンパ節を丸ごと1個とってきて

薄く切って組織をみたり

細胞を分離して表面をCD分類でみたり

遺伝子を抽出して調べてます。

 

日本人に最も多いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の細胞

濾胞性リンパ腫の細胞

マントル細胞リンパ腫では

それぞれ特有な組織形態を観察することができます。

 

 

悪性リンパ腫の治療

治療としては

化学療法であるCHOP療法が最も基本的で効果的なのですが

 

B細胞であれば

細胞表面にCD20を発現していますので

それに結合するヒト型モノクローナル抗体であるリツキシマブが使われるようになり

治療成績がよくなりました。

 

それから、珍しい治療法として

胃のMALTリンパ腫

胃酸の中で生育するヘリコバクター・ピロリ菌という細菌が

胃のリンパ組織を刺激して発症します。

 

このため

抗生剤とプロトンポンプ・インヒビターを組合した除菌療法で

元もとの原因であるピロリ菌を退治すると、リンパ腫も治ります。

 

このような患者を、強い副作用がある化学療法で治療しようと考えてはいけません。

 

 

最も成熟した段階のT細胞腫瘍

次は、T細胞リンパ腫です。

 

最も成熟したT細胞腫瘍である

成人T細胞白血病リンパ腫(ATL、ATLL)

わが国では、九州や四国に多く

HTLV-1というウイルスにより発症します。

 

このウイルスは

エイズの原因ウイルスであるHIVと同じ分類、レトロウイルスであり

母乳による母子間(垂直感染)、夫婦間(水平感染)、輸血などで感染します。

 

エイズと同様、CD4陽性細胞に感染しますが

エイズでは感染細胞を壊して減少させるのに対し

ATLではがん化がおこり、増えていきます。

 

この治療法として

新しくは

CCR4という細胞表面の分子を標的とした

ヒト化抗CCR4抗体(モガムリズマブ)が開発され

わたしが日本を代表して

2013年に国際学会でその効果を発表しました。

 

スイスのルガノというイタリア語圏内の都市でしたので

イタリア語で自己紹介したところ

会場は割れんばかりの笑顔と喝采に包まれたのを思い出します。

 

しかしながら

この白血病リンパ腫は血液腫瘍の中でも最も悪性度が高く

未だに治療成績は満足のいくものではありません。

 

やはりウイルスが原因ですので

感染予防が重要です。

 

若い世代の感染者は減少しているようですので

このまま感染予防を徹底して

この感染症と疾患をなくしてしまいたいところです。

 

この白血病細胞は特徴的な形態で、花びら状の核をもっています。

 

 

最も成熟した段階のB細胞腫瘍

一方

B細胞が最も分化した細胞

抗体を産生する形質細胞の腫瘍は

多発性骨髄腫です。

 

B細胞として

一度は骨髄から末梢血、リンパ節、脾臓などに出たものが

形質細胞になり、骨髄にもどります。

 

このため、多発性骨髄腫を発症すると

骨が壊れやすく

まずは骨折など整形外科的な症状がメインとなります。

 

体中の骨、頭蓋骨までも溶けて薄くなります。

 

この形質細胞は

腫瘍化しても抗体を産生します。

 

ただ

正常であれば、適切な数の細胞と抗体があるわけですが

がん化すると、そのバランスが崩れます。

 

骨髄という造血の場で

その腫瘍細胞ばかりが増えていきます。

 

その結果

ほかの抗体をつくる形質細胞がいなくなり

一種類の抗体をつくる腫瘍細胞だらけになり

免疫電気泳動で

針のような単クローン性免疫グロブリン血症(Mタンパク血症)の状態となります。

 

これでは

様々な感染症に対応することができなくなり

免疫不全状態になります。

 

また

この多量の抗体が、赤血球同士に結合し

赤血球が連なります(連銭形成)。

 

そうなると

血液の流れを妨害するようになり

細い血管がつまったり、破れたりして

間欠的な意識障害、めまい、耳鳴り、鼻出血、手指や足趾のしびれ、眼底出血など、がおこります。

 

 

出血性疾患について

つぎは、出血性疾患について話します。

まず、血小板ですが

骨髄の中で、多能性造血幹細胞から巨核球が生まれ

その細胞質がちぎれて、産生されます。

 

その血小板は

もちろん出血を止めるのに大きな役割を担っているわけですが

その異常だけが出血性疾患の原因ではありません。

 

血管に異常があれば

血液は血管外に漏れ出ますし

凝固因子の異常があれば

血小板がいくら集まっても貧弱な血栓をつくることしかできません。

 

 

血小板の異常

血小板の異常では

皮下出血、点状出血がみられます。

 

その代表的な疾患としては

特発性血小板減少性紫斑病

血栓性血小板減少性紫斑病があります。

特発性血小板減少性紫斑病

基礎疾患や薬物の影響なしで出現する

後天性の免疫学的機序に基づく血小板減少症です。

 

急性型と慢性型があり

急性型は

小児の上気道炎など感染症でおこり

多くの場合は自然に治ります。

一方慢性型では

血小板数が2万/μL以下になり

治療が必要となります。

 

異常な免疫反応を抑えるために

ステロイド療法をおこないます。

それでも効果なければ

血小板を破壊する臓器、脾臓を摘出します。

ちなみに

通常、われわれは、20万~30万/μLの血小板をもっていますが

もし妊婦が血小板数5万/μLまで減少しても自然分娩できるといわれています。

8万/μLあれば、開腹手術も可能です。

ですから

血小板数1~2万/μLで必要な場合でなければ

血小板輸血はしません。

 

血栓性血小板減少性紫斑病

血管内皮細胞で産生され血小板の粘着に必要な

フォン・ヴィルブランド因子が

ADAMTS13という酵素により切断されず

体中の血管内に

過剰な血小板凝集を引き起こすことで発症します。

 

血栓ができて

血流が途絶えたり

その血管を通過しようとする赤血球が壊れたりするので

症状としては

血小板減少性紫斑病・細血管性溶血性貧血・神経症状の三徴

さらに発熱・腎障害を加えて五徴といいます。

 

治療は

正常なADAMTS13を補うために

新鮮凍結血漿(FFP)輸注や血漿交換療法をおこないます。

 

 

凝固因子の異常

次に、凝固因子の異常です。

 

先日お話しましたように

内因系では組織との接触により

外因系では組織因子の血管内流入により

凝固因子が活性化され

次々に次の反応を活性化し

まるで滝の流れのごとく反応は進みます。

 

そして共通系で

X、V、II、Iと反応し

最終的に安定化フィブリンを形成し

血小板血栓を強固なものにします。

凝固異常による出血性疾患といえば

血友病でしょう。

 

この内因系に属する

VIII因子欠乏症を血友病A

IX因子欠乏症を血友病Bといいます。

 

ともに伴性(X連鎖)劣性遺伝であり

このため患者は通常男性です。

 

症状は、筋肉や関節内など深部組織での出血です。

 

治療は不足している凝固因子を補充します。

 

 

播種性血管内凝固症候群(DIC)

そして

出血性疾患で是非覚えていただきたいのが

播種性血管内凝固症候群(DIC)です。

 

これは

様々な基礎疾患に合併して血管内凝固が活性化され

 

全身の細小血管に血栓が多発し

 

血流が閉ざされるので多臓器の障害がおこり

 

血小板・凝固因子が異常な血栓形成のために消費されて

減少してしまい

 

ついには出血が止まらなくなるという症候群です。

 

原因としては

感染症・悪性腫瘍・産科的疾患など様々ですが

通常は血管内に存在しない

細菌毒素や異常細胞や物質が流入しておこる

と覚えておきましょう。

 

急性白血病でもおきますが

特に急性前骨髄球性白血病(APL)では

腫瘍細胞自体がDICの原因物質をもっていますので

DICは必発です。

 

治療は

まず基礎疾患の治療が最も重要です。

 

そして

出血しているので躊躇するかもしれませんが

抗凝固療法をおこないます。

 

最初に全身におこる血栓形成を抑える必要があるからです。

各臓器への血流を再開しなければなりません。

 

減少した血小板に対しては血小板輸血

凝固因子に対しては新鮮凍結血漿を輸注します。

 

 

造血幹細胞移植について

さて、ここからは血液ならではの治療について話しましょう。

特に

私が以前いた頃の国立病院機構熊本医療センターは

単一施設として

造血幹細胞移植症例数が全国6位でした。

 

正常な造血幹細胞を患者に移植して

正常な造血を再構築する治療法です。

 

移植するためには

ヒト白血球抗原(HLA)が適合するドナーを探すことから始めます。

 

血液型や男女の差は関係ありません。

 

移植日が決まると

その日に向けて患者に前処置をおこないます。

 

通常の化学療法であれば

腫瘍細胞以外の正常造血細胞が残るような

ある程度手加減する量の抗がん剤投与を

繰り返して

正常血液細胞が残るようにしながら

腫瘍細胞を減らし

完全寛解状態にもっていきます。

 

しかし

造血幹細胞移植では

患者の血液・造血細胞を残す必要がありません。

このため

大量の抗がん剤投与や

全身への放射線照射をおこないます。

 

そして

ドナーから採取した造血幹細胞を

静脈から輸注します。

 

造血幹細胞の供給源は3つあります。

 

最も歴史が長く、より理解されている骨髄

 

短期間で幹細胞採取できて、血球回復までの期間が短い、末梢血

 

そして

最近では主流になりつつある臍帯血です。

 

骨髄移植では

ドナーに大きな負担がかかります。

全身麻酔で手術を受けるのと同じと考えてもよいでしょう。

 

うつぶせになり

数時間かけて

後腸骨稜に左右合わせて100個くらい穴を開けて骨髄液を採取します。

 

一回に吸引する量を数mLにしないと

血液が混ざって薄まってしまいますので

場所や深さを変えて

何度もおこないます。

 

そして

合計1Lくらいの骨髄液を

採取することになります。

 

ドナーは当然貧血になりますので

その数週前から、自己血を保存しておき

それを輸血します。

 

末梢血から幹細胞を採取するためには

G-CSFを4~5日間投与して

骨髄中のCD34細胞が末梢血中にあふれ出てくるのを

集めて

残りの血液をまた身体に戻します。

 

正常のドナーにG-CSF投与することで

白血球数は何万にもなりますので

脾臓が破裂したり

ドナーに潜在的にあった白血病を発症させたりする例が報告されています。

 

また

皮膚病変などの慢性GVHD

患者におこりやすいのも問題です。

 

臍帯血は、

以前は出産時に無用なものとして廃棄されていました。

 

ところが、その中に

造血幹細胞など未熟な細胞が存在することがわかり

移植に用いられるようになりました。

 

未熟な細胞ですので

免疫反応が弱く

HLA型が一致しなくても、生着が得られ

GVHDもそれほど問題になりません。

 

ただ、逆に

生着して

成熟した血液細胞を産生するまでに

1ヶ月以上かかり

 

元々の細胞数が非常に少ないので

大きな成人に移植できないことも問題です。

 

わたしは、この問題を解決するために

熊本で初めて

2人の赤ちゃんからの臍帯血を

一人の成人患者に移植し

成功しました。

 

前処置後は

患者の血液細胞はなくなってしまいますので

白血球数がゼロになります。

 

このため

身体の中の腸内細菌でさえも

前もって殺菌しておく必要があります。

 

移植前から無菌室での治療が始まり

生着して

血液細胞がある一定数になるまで続きます。

 

移植センターでは

廊下から既にヘパフィルターで空気を清浄化し

 

手が触れなくても生活できるように

水道やトイレにセンサーがついています。

 

ベッド上には

数個のゴミ粒子しか落ちてこないような状態です。

そして移植後は

 

感染症だけでなく

生着して産生されたドナー由来の免疫細胞が

患者の身体に対して攻撃を始めるようになります。

 

これを移植片対宿主病(GVHD)といい

 

特に患者の皮膚・肝臓・消化管が攻撃対象となります。

 

その一方で

残存している白血病細胞に対しても、攻撃がおこり

これを移植片対白血病(GVL)効果といいます。

 

 

輸血療法について

移植や化学療法による血球減少時

生命を支える支持療法として

重要なのが

輸血療法です。

 

輸血自体が

他人から血液を移植する治療とも言えます。

輸血製剤には

全血輸血と成分輸血があります。

全血輸血ですと

生存期間の異なる様々な血液細胞が患者体内に入り

副作用や合併症を引き起こすことになりますので

成分輸血が原則です(https://juraku-clinic.jp/q-and-a/)。

 

赤血球製剤

血小板製剤

血漿製剤などがあります。

最も生存期間の長い赤血球

有効期間が採血後21日間です。

それまでは2~6℃で保存します。

 

血小板

採血後4日以内に使う必要があり

20~24℃で振とうしながら保存します。

 

血漿新鮮凍結血漿(FFP)と呼ばれるように

-20℃以下に凍結して

採血後1年間は有効です。

使用するときは

中に含まれている凝固因子などタンパクが変性しないように

30~37℃で融解します(https://juraku-clinic.jp/q-and-a/)。

 

他人からの血液ですので

輸血しないで済むのであれば輸血はおこないません。

 

ですから

その必要性や副作用などについて

患者に説明し、同意を得なければなりません。

 

輸血の副作用を見逃さないためのポイントがあります。

血液ABO型判定

Rh(D)型判定

輸血前

血液製剤を受け取る時

輸血製剤を暖めたり輸血セットをつないだりする準備の間

そして実際に輸血を始めてから終了するまでの時間です。

 

 

輸血の副作用

副作用で最も重篤なのが

不適合輸血です。

 

しかも、これは人為的ミスでおこります。

 

その際の症状として

特に

血圧低下

呼吸困難

意識障害

血尿が出現すると

致死的です。

 

患者血液型と輸血した血液型の

次のような組み合わせでおこります。

 

O型患者に対してはどの血液型でも

A型患者にはB型とAB型の赤血球製剤で

そしてB型患者にはA型とAB型赤血球輸血

 

絶対おこなってはなりません。

 

では

血液型がわからない救急搬送患者に

すぐ輸血しなければ命が助からないという場合

どうすればよいのでしょう。

 

答えは

聚楽内科クリニックホームページの

医学Q&Aコーナーをみてください(https://juraku-clinic.jp/q-and-a/)。

 

遅発性溶血は

過去の輸血や妊娠によりできた抗体が原因でおこる副作用です。

発熱も輸血の副作用時にみられる症状です。

ABO不適合輸血では

輸血開始して間もなく

ほかの症状と一緒にあらわれます。

 

細菌感染のリスクもあります。

献血の針を刺す際に

皮膚の毛嚢などに存在する常在菌が入ってくるからです。

もちろん、これを取り除く処置をしてから製剤をつくっているのですが...。

 

次回の授業から出てくるアレルギーですが

輸血でもおこります。

アレルギーが

皮疹や痒みという程度であれば

まだよいのですが

 

呼吸困難や血圧低下のように

全身症状として出現する場合を

アナフィラキシーといいます。

 

これによるショック状態は危険であり

救急処置が必要となります。

 

輸血関連急性肺障害(TRALI)です。

これは、とくに献血者の血漿中に

白血球に対する抗体ができていて

それが輸血により

患者の体内で白血球と反応し

肺病変が急速に進行します。

 

死亡する例も報告されています。

 

このような抗体は

妊娠などにより女性の血液中にできやすいようです。

 

このため

英国では

男性献血者由来の血漿製剤を

できるだけ優先的に使うようになり

この副作用の発生率が減少しています。

 

さらに、輸血関連循環過負荷というのは

高齢者や小児に早く輸血しようとすると

心臓に負荷がかかり

心不全状態になります。

 

また、赤血球には鉄が含まれていますから

長期にわたって輸血していると

鉄が沈着して

心不全、肝硬変、糖尿病などの臓器障害をおこします。

 

そして、電解質のカリウムも

赤血球内に含まれていますから

新生児や腎不全患者などに大量に輸血する場合には

心機能に注意が必要です。

 

 

ウイルス感染と輸血

さて、ここからは

ウイルス感染について、お話します。

 

ちょうど世界が

新型コロナウイルス(COVID-19)と戦っているときですので

それを理解するのにも役立つでしょう。

 

日本では、戦後

食べるお金もなく

輸血用の血液を売って収入を得ることもありました。

 

このため

肝炎ウイルス感染者が何度も売血し

ウイルス性肝炎が広がりました。

 

これを何とか防ごうと

日本赤十字は

検査方法を改善していきました。

 

検査の対象は

肝炎ウイルスに限らず

エイズの原因ウイルスであるHIV-1

そして成人T細胞白血病の原因であるHTLV-1

さらにサイトメガロウイルス、パルボウイルスと範囲を広げていきました。

しかしながら、最近になっても

輸血によるB型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルス、そしてHIV感染を

完全に防ぐことはできていません。

 

その理由のひとつは、

献血者のウイルス感染については

問診による自己申告が大きなウエートを占めていること

 

そして、重要なのは

ウインドウ期の存在です。

 

これは

病原体に感染した初期で

まだ抗原や抗体が検出されない時期のことをいいます。

 

例えば

HIV-1の場合

PCR法を用いても、感染して11日間は検出されず

抗体にいたっては

3週間経たないと検出できません。

 

肝炎ウイルスの場合には

それより長い時間が必要となりますので

そのウインド期に献血した血液は

検査の眼をかいくぐってしまうのです。

 

 

エイズについて

最後に、エイズの話をします。

今、日本には、1万人くらいの患者がいます。

 

HIVに感染してからエイズ発症するまで

以前は、5年~10年といわれていましたが

最近では、症状のない期間が短くなっているようです。

 

エイズを発症して病院でHIV感染が初めて判明する

「いきなりエイズ」という症例が多いのが

日本人の特徴です。

 

このため、HIV検査が

保健所で広くおこなわれていますので

気になる人は検査を受けてください。

 

もう5年前ですが

京都の地下鉄内には普通の広告として

そのようなポスターが掲示されていました。

 

医療従事者にとって

HIV感染は他人事ではありません。

肝炎ウイルスと同様

採血の際の針刺し事故が問題となります。

 

特に

救急外来を担当していれば

いつ、そのような患者が運ばれてくるかわかりません。

 

もし刺してしまって

その患者がHIV陽性とわかったら

抗ウイルス薬の内服を開始します。

 

ウイルス量が少量で、治療が早ければ

ウイルスがなくなることを期待できます。

 

しかしながら

エイズ患者の場合

現在の治療で発症を抑えることはできますが

ウイルスを排除してしまうことはできません。

 

また、セックスでも特に受け入れる側で感染率が高くなります。

できるだけ、コンドームを使うようにしましょう。

最近の感染者数は横ばいになっているようですが

このHIV感染が米国から世界へ広がり

日本へ入ってきたときは

まだ、このような状態でした(グラフを示しながら)。

 

特に覚えておいて欲しいのは

1992年ごろのピークは

血友病患者を治療するために

米国から輸入した血液製剤

HIVが混入していたためだということです。

 

 

最後にひとこと

このように

血液は

人間が生きていく上で

必要不可欠なライフラインです。

 

しかし

その疾患を治療し

また、それを他の患者の治療に役立てるためには

ウイルスとの戦い

副作用をなくすための努力

輸血製剤・輸血療法に替わる新たな方法の開発など

まだまだ解決しなければならない課題がたくさんあります。

 

これまで多くの患者を治療して思うのですが

病気が悪くなってから治療するのは

患者にとっても医療者にとっても大きな苦痛です。

 

より軽い症状のうちに治療する

あるいは

もと進んで

予防して発病を未然に防いでしまう

 

そういう医療が

これから最も重要であると感じています。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。