熊本市医師会看護専門学校講義 2020年8月6日「アレルギー」総論
皆さんもご存知と思いますが、患者数は年々増えています。
でも、その一方で、例えば喘息患者の死亡数は減少しています。
これは、春先にテレビで抗アレルギー薬のコマーシャルをよく観るように、治療薬が進歩し、一般に普及してきたのが要因のようです。
みなさんの中の何人かもアレルギーを経験しているようですし
今回の授業は日常生活においても役に立つと思います。
本日はアレルギーについての授業ですが、その前に免疫についておさらいしましょう。
生体防御
体表面・体内で異物(病原体)と接するところ
体表面は皮膚の角質層、さらには汗(IgAとリゾチーム)ならびに常在菌により
バリア(防御)機能をもっています。
したがって、今話題の新型コロナウイルスの感染経路としては
このバリアがない部分
すなわち、眼・鼻・口で問題になります。
眼は涙液中のIgAやリゾチーム
鼻口から肺にかけては鼻汁中や気道粘液中の分泌型IgAやリゾチーム、気道粘膜の樹状細胞、そして肺胞マクロファージがはたらき
口腔内は唾液中のIgAやリゾチーム、消化管では、胃酸と腸管内の常在菌、樹状細胞、リゾチームなどが機能しています。
このように、それぞれで何らかのバリア機能をもってはいますが
新型コロナウイルスの場合、とくに鼻腔や口腔から喉、そして気道や肺の細胞に結合し感染しているようです。
自然免疫と獲得免疫
この話は、「血液・造血器」の授業でも出てきました。
自然免疫では
おおまかに異物として捕らえ
好中球は過酸化水素やリゾチームを分泌して殺菌溶菌し
マクロファージは食作用(貪食)で処理し
NK細胞はグランザイムやパーフォリンを分泌して攻撃・破壊します。
獲得免疫では
ある特定した標的を狙って免疫反応がおこります。
まず抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ)が貪食・抗原提示をおこないます。
その情報は2種類のヘルパー細胞に伝達され、異なる免疫反応をおこします。
ひとつは、細胞性免疫とよばれるもので
ヘルパーT細胞(CD4、Th 1)からキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)(CD8)に抗原情報が伝達され、その感染細胞に対してパーフォリンを分泌して攻撃・破壊します。
もうひとつは、液性免疫といい
ヘルパーT細胞(CD 4、Th2)からの抗原情報により、B細胞(CD 20)が活性化され、形質細胞へと変化して、その抗原に対する抗体を産生します。
今、新型コロナウイルスに対するワクチン開発で世界中が競争していますが
そのワクチンにより、このようにして体内に抗体がつくられます。
また、エイズの原因ウイルスHIVが感染して破壊するのは
CD4陽性のヘルパーT細胞です。
このため細胞性免疫も液性免疫も機能しなくなり、免疫不全状態となるわけです。
抗体
抗体は、5種類のクラスに大別されます。
IgMは五量体を形成しており、感染初期に増加し、II型・III型アレルギー反応に関与します。
IgGは血中で最も多い抗体で、感染後IgMに続いて増加し、II型・III型アレルギーに関与します。
IgAは二量体を形成し、分泌型であり、血清中のほか、母乳や涙液・鼻汁・唾液・汗などの分泌液や粘液に含まれています。
IgEはマスト細胞や好塩基球の表面に結合し、I型アレルギーを引きおこします。
IgDは機能不明です。
免疫と疾患
外来抗原と体内にある内在抗原に対する免疫反応を
それぞれ、その反応の強さで分けると、次のようになります。
まず、外来抗原の場合
その外来抗原=アレルゲンに対する免疫反応が過剰な場合はアレルギーであり
免疫反応が低下していれば感染症(外来病原体に対する免疫力低下)です。
さらに内在抗原の場合には
通常はおこらない自分自身(自己)への反応がおこれば自己免疫疾患であり
体内の異常細胞への免疫反応が低下していれば自己細胞の暴走をゆるしてしまい、それは腫瘍(がん)となります。
免疫担当細胞
リンパ球系
すでに説明しました。
顆粒球・単球系
こちらについても「血液・造血器」の授業で説明しましたが
抗原提示細胞として血液中に数日だけ存在する単球が組織へ移行してマクロファージや樹状細胞に変化します。
マスト細胞(肥満細胞)は組織に存在し
IgEが表面にある受容体に結合した状態で
異物がその細胞表面のIgEにまたがって結合(架橋)すると
マスト細胞が活性化され
脱顆粒によりヒスタミンを、アラキドン酸をもとに合成されたロイコトリエンやプロスタグランジンを細胞外に放出します。
さらにIL-4などのサイトカインやケモカインを発現しています。
好塩基球は
血液中で
マスト細胞と同じように、ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンを合成し、細胞外に放出します。
好酸球は
血液中だけでなく
例えば喘息では、喀痰中でも増加し、粘膜上皮下に浸潤して、ロイコトリエンなどを放出します。
化学伝達物質とサイトカイン
ヒスタミンは
マスト細胞や好塩基球などが産生します。
血管拡張作用による血圧低下、血管透過性亢進、平滑筋収縮作用による気管支収縮などをおこします。
ロイコトリエンは
マスト細胞、好酸球、好中球、単球・マクロファージなどが産生し
平滑筋収縮による気管支収縮、好酸球誘導、血管透過性亢進などをおこします。
プロスタグランジンは
局所での血流増加作用や血管透過性の亢進、白血球の浸潤増加などをおこします。
サイトカインは
T細胞、マクロファージ、樹状細胞、マスト細胞、上皮細胞、線維芽細胞などが産生します。
免疫担当細胞を活性化し、抗体産生など、例えばIL-4はIgE産生を誘導し、IL-5は好酸球を増加させ機能を強めます。
アレルギー反応の分類
体内に異物がはじめて侵入して、免疫系が異物を抗原として認識する段階を感作とよび
この時点では一般的にアレルギー症状はみられません。
異物(アレルゲン)が2回目以降に侵入した際にアレルギー反応がおこります。
I型アレルギー
IgE抗体がマスト細胞や好塩基球の表面にあるレセプターに結合し
さらにアレルゲンが複数のIgEにまたがって結合し、IgE架橋がおきることで
肥満細胞や好塩基球から放出されたヒスタミン、ロイコトリエンが起こす急性免疫反応(即時型アレルギー)です。
喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、急性蕁麻疹、アナフィラキシー、食物アレルギーなどをおこします。
15〜20分で皮膚病変などがみられ(即時型反応)
その後ロイコトリエンやサイトカインにより好酸球やT細胞が局所組織に集められ活性化すると4〜8時間後から再び局所反応やアナフィラキシーという全身症状が生じます。
II型アレルギー
IgGあるいはIgMが標的細胞上の抗原(自己細胞の細胞膜表面の物質)と結合し
細胞障害と細胞融解を生じます。
細胞融解反応、食作用の促進、抗体依存性細胞傷害作用、そして細胞の機能障害という4つのタイプがあります。
ABO型不適合輸血では
血液型抗体(+)患者への血液型抗原(+)血液輸血により、補体の活性化により細胞を融解します(細胞融解反応)。
自己免疫性溶血性貧血やRh型不適合妊娠では
抗体の結合により、マクロファージや好中球などによる貪食が促進されます(オプソニン化)。
母親がRh陰性、胎児がRh陽性の場合には、児の赤血球が経胎盤的に母体に入り、抗Rh抗体が生じ溶血をもたらします。
グッドパスチャー症候群では
糸球体基底膜と肺胞基底膜に対する抗体が、
橋本病では
サイログロブリンや甲状腺ペルオキシダーゼに対する抗体ができて
マクロファージやNK細胞内にあるリソソームから活性酸素や酵素が放出され、標的を破壊して融解します(抗体依存性細胞傷害作用)。
バセドウ病では
自己の甲状腺刺激ホルモン受容体に対する抗体が生じ、慢性的に甲状腺が刺激されます。
重症筋無力症は
自己細胞のアセチルコリン受容体に対する抗体が生じることにより、神経伝達が遮断され、筋力低下がもたらされます。
III型アレルギー
IgGあるいはIgMが抗原と混ざり結合して免疫複合体(抗原抗体複合体)を形成し
組織や細胞に結合して補体を活性化し、組織傷害を引きおこします。
血清病や糸球体腎炎を生じます。
IV型アレルギー
細胞性免疫であり
感作T細胞がキラーT細胞を活性化し
感作T細胞から分泌されたサイトカインがマクロファージや好中球を活性化し
組織を傷害します。
ツベルクリン反応や接触皮膚炎、さらには移植片対宿主病(GVHD)も同じ機序で発症します。
アレルゲン
アレルギー疾患の原因となる抗原のことです。
1つのアレルゲンが複数のアレルギー疾患を引き起こすことも多く
例えばダニは、気管支喘息や、通年性アレルギー鼻炎、アレルギー性結膜炎の原因として最も重要です。
アレルゲンとなるダニはヒョウヒダニという種類で
ダニの虫体だけでなく、糞や死骸もハウスダストとしてアレルゲンになります。
アレルゲンとなる花粉には
スギ、ブタクサ、カモガヤ(イネ科)、ヨモギ(キク科)、シラカンバなどがあります。
高度成長期の1950年代に大量に植林がおこなわれましたが、使われなかったスギやヒノキから、春になると大量に花粉が飛散し、季節性花粉症を引きおこします。
食物抗原は食物アレルギーやアナフィラキシーの原因となります。
小児では牛乳や卵
成人では小麦や果物、エビ、ソバ、ナッツ類が主なアレルゲンです。
皮膚から侵入する抗原としては
金属、ウルシ、化粧品、白髪染め、ラテックス(天然ゴム)、ハチ毒などがあります。
薬物も抗原となり得ます。ワクチンや血液製剤も注意しなければなりません。
アレルギーの経過
主にI型アレルギーで、特定の抗原に対してIgEを産生しやすい体質をアトピー素因といい
アトピー素因の人においては、複数のアレルギー疾患が生じやすくなります。
しかも、このような患者では
成長過程においてアレルギー疾患が発症する順番は大まかに決まっています。
乳児期に湿疹や下痢が生じ
幼児期にはアトピー性皮膚炎や気管支喘息
学童期以降ではアレルギー性鼻炎・結膜炎を発症しやすくなります。
これをアレルギーマーチとよびます。
また、一旦アレルギー症状が落ち着いた後、数年から数十年経った後、再びアレルギー疾患が出現することもあります。
診察と検査
問診
内科の診断は8割が問診で決まると言っても過言ではありません。
症状出現前の食生活や行動を尋ね
季節と症状との関係
どの地域で罹患したのか
内服薬は
という質問から得られた回答を、頭の中でつなぎ合わせて、パズルを解いていきます。
診察
そして、実際にあらわれたアレルギー症状やその部位から、核心にせまります。
一つの症状からいくつかの疾患を鑑別することもあります。
例えば喘鳴を聴取すれば
それが喘息によるものなのか、うっ血性心不全によるものなのかの鑑別をするため、
さらに診察を進め、次の検査を計画します。
検査
ここではアレルギー検査について話します。
抗原特異的IgE
特定の抗原に対して産生されたIgEは
微量ですが血清濃度で測定することができます。
しかしながら、この検査結果だけで疾病の原因となるアレルゲンと決めつけてはいけません。
検査は問診などを補助する情報でしかありません。
白血球検査
気管支喘息やアトピー性皮膚炎などでは
末梢血の白血球数は正常であっても
白血球分画で好酸球の増加が認められます。
また、好酸球は
アレルギー性鼻炎患者の鼻汁や、気管支喘息患者の喀痰でも増加します。
リンパ球刺激試験
血液中のリンパ球を抗原とともに培養すると
抗原に感作されているリンパ球が増殖します。
リンパ球芽球化試験あるいはリンパ球幼弱化試験とよばれ
実験室や研究室でおこなわれますので、あまり一般的ではありません。
皮膚テスト
前腕屈側の皮膚にアレルゲン液を滴下し
針で浅く刺すプリックテストや
針先で2~3mmの傷をつけるスクラッチテスト
さらにはアレルゲン液を0.02mL皮内注射する皮内テストがあり
I型アレルギーの検査として即時型皮膚反応を利用しています。
コントロールとして、生食水を用い
15~20分後に発赤(紅斑)および腫脹(膨疹)の大きさを測定します。
その他
誘発試験は
アレルゲンが実際にアレルギー症状を引きおこすかどうかを観るもので
症状が重篤となる危険性があるため専門施設に限定しておこなわれます。
治療
生活習慣の改善
不規則な生活、ストレスの多い生活では、アレルギー症状が悪化しやすいので
規則正しい生活を心がける必要があります。
身のまわりのアレルゲンを除去しましょう。
例えば
寝具を洗ったり
掃除機をかけたり
マスクをしたり
有毛動物のペットを飼わないようにしましょう。
喫煙は
アレルギー疾患全般に悪影響を及ぼします。
とくに喘息の発症リスクを高め
そして
その最も重要な治療薬であるステロイド吸入薬の臨床効果を打ち消します。
禁煙しましょう。
大気汚染物質、とくにPM2.5も
タバコと同様に上下気道や眼結膜の症状を悪化させるので
気象予報に気をつけて、予防対策をとるようにしましょう。
薬物療法は重要ですので、その話は次回に各疾患の症状とあわせて説明します。