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院長日記

血液・造血器疾患の診察・検査の進め方

武本 重毅

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熊本市医師会看護専門学校講義(2020年9月24日)の内容をまとめてみました。

 

血液細胞減少などによる症状

血液・造血器疾患は、赤血球、白血球ならびにリンパ組織、血小板・凝固線溶系の異常に分けられますが、いずれも全身的な症状を呈します。そして、血液を運ぶ血管網は体中の組織や臓器に張り巡らされたライフ・ラインです。

その中で、赤血球が減少すれば貧血となり、白血球が減少すれば感染がおこり発熱し、血小板が減少すれば鼻血など出血しやすくなります。

では、血液疾患の診断として、実際の手順に従い、病歴の聴取と診察について、身体の中の各臓器別に起こりえることを考えながらみてみることにしましょう。

 

赤血球の異常(特に貧血)

まず脳は、酸素と糖を必要としています。ですから、酸素を運ぶ赤血球が減少すると酸素欠乏になり、頭痛・めまい・顔面蒼白・失神発作などがおこります。また逆に赤血球が増えすぎても、細い血管で詰まってしまい、脳梗塞・脳出血をおこしてしまいます。これは糖尿病治療中でも同様で、低血糖になれば気を失いますし、逆に高血糖では血液の粘稠性が高くなり細い血管での流れが悪く詰まるようになり、結果として低血糖と同じ症状が出現します。

心臓を養う冠動脈でも同様に、狭心痛などがおこり、低酸素状態を代償しようと動悸・息切れがあらわれます。

また腎臓は細い血管が集まっていますので、非常に敏感に影響を受ける臓器です。腎機能が低下していきます。

問診では、まず、めまいや立ちくらみなど日常生活での症状を尋ねます。貧血の進行が急性か慢性かで、症状が異なります。ゆっくり進むと、ひどい貧血なのに、普通に日常生活を送っている患者がいます。

成長期であれば、ます鉄欠乏性貧血を疑います。女性であれば月経の量や周期の変化について尋ねます。冬など寒いときに氷をガリガリと噛みたくなるかどうかも尋ねます。消化管出血や痔からの出血についても確認が必要です。

手術歴を尋ねて、胃を全摘していればビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血を考えます。家族歴があれば、遺伝性球状赤血球症などを考えます。

再生不良性貧血などは、薬剤、有機化合物、感染症などの外的な要因が原因となるため、職業歴や生活歴を含む病歴聴取が重要です。

 

発熱

「38.3℃以上の発熱が何度か認められる状態が3週間を超えて続き、1週間の入院検査でも原因が不明なもの」を不明熱といいます。その原因として、感染症悪性腫瘍膠原病の鑑別が重要です。

感染症が頻度は高く、軽症から重症まで様々です。悪性腫瘍は重症度が高く、その発熱を腫瘍熱とよびます。白血病悪性リンパ腫など造血器腫瘍(いわゆる血液がん)では、病勢により発熱がみられることがあります。またホジキンリンパ腫ではペル・エプシュタイン(Pel-Ebstein)熱とよばれる熱型が知られています。

 問診では、いつから具合が悪いのか、どこに行ったか、誰と会ったか、などの質問をします。そして、潜伏期や感染様式を考えながら、可能性のある病原体を絞っていきます。

 

診察(血液疾患を念頭において)

診察では、まず顔色をみて、眼瞼結膜などの色をみます。

それから口腔内、舌の色と炎症の有無をみて、頚部では、リンパ節腫脹の有無や甲状腺腫大の有無を確認します。

鎖骨上窩胸背部・腹部と診察し、聴診で心雑音・肺雑音の有無、腹部で手術痕の有無や肝脾腫の有無などをみます。必要と考えれば、腋窩、鼠径部のリンパ節腫脹の有無も触診します。

四肢では、手掌の色、爪の形、関節の形、関節炎の有無や出血斑・点状出血の有無を確認します。

 

リンパ節腫脹

リンパ節というのは、リンパの流れの関所みたいなものです。ケガなどで外部から入ってきた病原菌をそこでくい止めて、免疫細胞が戦います。このためリンパ節が腫脹します。リンパ節の中には、B細胞と領域(濾胞)とT細胞の領域(傍皮質)があります。

感染症の場合は、柔らかくて痛みを伴う腫脹ですが、一方、リンパ腫など悪性腫瘍の場合は固くて圧痛はありません。例えば、リンパ腫では触診して「大きさ1.5cm×1.2cm、表面平滑、弾性硬、圧痛なし、可動性あり」という表現をします。癌の転移では、もっと硬く、ゴツゴツした感じ、あるいは堅いプラスチックの球体のようになります。

リンパ節腫脹の原因としては、まず感染症、そして重症度の高い悪性腫瘍(転移も含む)、さらに膠原病や自己免疫疾患など炎症による反応性腫脹、そしてゴーシェ病やニーマンピック病のようなマクロファージや貪食細胞の異常です。

左鎖骨上窩にはウィルヒョウリンパ節があり、胃がん・胆のうがん・すい臓がんなど悪性腫瘍の転移がおこります。

 

脾腫

 脾臓は、左季肋部にあり、エジプト時代から、肝臓と対に存在する臓器と考えられましたが、事故などで脾臓がなくなっても特に問題なく生活できることから、その役割は長い間謎でした。現在では、①老化した血液を除去、②抗原や細菌を認識して抗体を産生、③血小板をプール、そして④造血という4つの機能をもっていることが明らかになりました。

 脾腫の原因として、血液疾患だけでなく、マラリア・結核・梅毒など慢性感染症やサルコイドーシス・全身性エリテマトーデスのような免疫疾患、さらには肝硬変・バンチ症候群のように門脈圧が亢進するような病態があります。

 

出血傾向

出血傾向には、大きく分けて二つのタイプがあり、血小板減少など血小板の異常と、血友病など凝固因子の異常では、その症状に違いがあります。血小板の場合は、皮膚表面や鼻出血など眼に見える形で血管から出血しますが、凝固因子の場合は、身体の深いところ、関節内や筋肉内などで出血します。

原因としては、血管の異常、血小板の異常、凝固因子の異常があります。

 

検査と病態

血球計算

赤血球数異常

検査結果で、ヘモグロビン値(血色素量)をみて、男性13g/dL以下、女性12g/dL以下に減少した状態を貧血といいます。そして貧血の鑑別診断には、赤血球数・ヘモグロビン値・ヘマトクリット値をもとにした赤血球指数を用います。特に、その中のMCV(平均赤血球容積)MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)を用いた分類が役に立ちます。

小球性低色素性貧血(MCV 80fL以下、MCHC 30%以下)、正球性正色素性貧血(MCV 81~100fL、MCHC 31~35%)、大球性正色素性貧血(MCV 101fL以上、MCHC 31~35%)に分けてみます。

小球性低色素性貧血には、ヘモグロビン合成障害による鉄欠乏性貧血サラセミア、そしてヘム合成障害による鉄芽球性貧血、そして鉄を骨髄へ運ぶことができない無トランスフェリン血症があります。

大球性正色素性貧血としては、ビタミンB12あるいは葉酸の欠乏によりDNA合成が障害されて生じる巨赤芽球性貧血があります。

一方、赤血球数が600万/μL以上、ヘモグロビン18g/dL(男子)17g/dL(女子)以上、ヘマトクリット値55%以上であれば、多血症となります。

白血球数異常

末梢白血球数が1万/μL以上の場合を白血球増加症、3,000/μL以下の場合を白血球減少症といいます。そして、好中球数が1,500/μL以下の場合を好中球減少症といい、さらに極端に少ないことを無顆粒球症とよびます。

好中球減少している場合には、まず薬剤の影響を考えます。

血小板数異常

 血小板数が10万/μL以下の状態を血小板減少症とします。しかし、機能に問題のない血小板数が、これくらいあれば、理論上、開胸手術が、8万/μLあれば開腹手術が、5万/μLあれば自然分娩可能といわれています。輸血を考えるのは、よほど出血傾向が強くない限り1万/μL以下になってからです。

 使用する抗凝固剤によっては、血小板が凝集して正確にカウントされず、偽性血小板減少症を呈することがありますので、注意が必要です。

 

形態検査

 末梢血塗抹標本を作製し、顕微鏡で観察します。白血球を分類(白血球分画)し、血球形態異常をみます。

 赤血球で、鉄欠乏性貧血の場合は小型で中央部の明るい部分が大きくなります。遺伝性球状赤血球症では球状赤血球サラセミアでは標的赤血球血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)播種性血管内凝固症候群(DIC)で機械的に破壊され断片化した破砕赤血球をみることができます。

白血球では、重症感染症などで好中球の桿状核球の比率が増加し後骨髄球の出現をみる「核の左方移動」、重症感染症がんの骨髄転移などで白血球が5万/μL以上に増加したり芽球が出現する「類白血病反応」、ウイルス感染症で認められる「異型リンパ球」、急性白血病骨髄異形成症候群慢性骨髄性白血病で末梢血中に出現する「白血病細胞」、また血小板では巨大血小板が出現していたら、それは診断に結びつくサインです。

 

骨髄穿刺・骨髄生検

 骨髄中の有核細胞を観察し組織診断するための検査です。

 骨髄穿刺と骨髄生検は、腸骨の後腸骨稜でおこないます。腹臥位になれない場合には、前腸骨稜胸骨第2肋間でおこなう場合もあります。

 塗抹標本やスタンプ標本を顕微鏡で観察し、細胞分画異常細胞の有無をみます。

 さらに、フローサイトメトリー細胞表面マーカーを調べたり、染色体・遺伝子検査をおこないます。

 

リンパ節生検

 悪性リンパ腫の場合、必ずおこないます。

表在に近いところにあればエコー検査、深部にあれば造影CT検査で位置と大きさを確認します。

腫大しているリンパ節を丸ごと採取して、組織検査フローサイトメトリーによる細胞表面マーカー検索染色体・遺伝子検査をおこないます。

 

細胞表面マーカー検査

 細胞膜表面には、それぞれの細胞の系統や分化状態を特徴づけることのできる分子(抗原)が存在します。国際的な統一分類としてCD(cluster of differentiation)分類が用いられています。

 白血病細胞やリンパ腫細胞に特異的に発現している抗原を解析することで、診断や治療効果判定を行います。

 造血前駆細胞に発現しているCD34を利用して、末梢血幹細胞を集めます。

 T細胞は一般にCD2CD3を発現しており、ヘルパーT細胞はCD4も、細胞傷害性T細胞はCD8も発現しています。

 B細胞はCD19CD20を発現しており、特にCD20B細胞リンパ腫に対するヒト型抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブの標的となります。

 

染色体検査

 染色体の構造異常(転座、逆位、欠失など)や数の異常を検出することで白血病や悪性リンパ腫の診断、病型分類、予後の予測、治療方針の決定や治療効果の判定をおこないます。

 FISH法は、異常を可視的に検出することができ、しかも迅速な判定が可能です。

 慢性骨髄性白血病では、t(9;22)(q34;q11)という9番染色体長腕と22番染色体長椀の転座によりBCR-ABLという遺伝子異常がうまれ、ヒト染色体で眠っていた癌遺伝子ABLが発現して細胞増殖にはたらきます。

 

遺伝子検査

 PCR法を用いた遺伝子異常の検出は、診断に重要であるだけでなく、治療後の微小残存病変(MRD)の検出にも有効です。

 

出血性素因

 血小板数出血時間活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)プロトロンビン時間(PT)によって診断します。

 例えば、血友病患者の場合、APTTPTを測定すると、APTTのみが延長します。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。