ドラッカー著「断絶の時代」から⑤:多元社会の理論・組織の社会的責任とは
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もっと組織について学びましょう。
リーダーとして組織の運営に携わる場合の心得です。
組織の社会的責任は重大な問題です。
しかし責任を中心に捉えたのでは
あまりに視野を狭くし、方向を誤ります。
実は政治学には、独立した概念としての責任が存在しません。
存在するのは責任と権限です。
責任には必ず権限が伴います。
逆に言えば権限のあるところに責任があります。
したがって問題は
何が組織の社会的責任かではなく
何が組織の正しい権限かということです。
自らの機能のゆえにいかなる影響を社会に与えるかということです。
あらゆる組織が
自らの使命を果たすうえで社会に何らかの影響すなわちインパクトを与えます。
あらゆる組織が
どこかに立地しています。立地先のコミュニティと自然環境に何らかの影響を与えます。
あらゆる組織が
人を雇用します。したがって人に力を行使することになります。
これらのインパクトは不可避です。
組織の責任に関する第二の原則は
さらに重要なこととして
自らのもたらす影響を事前に知り予防することです。
先を見て自らのもたらす問題を検討し
好ましからざる副産物を防ぐことは組織の社会的責任です。
これは組織自らの利益のためでもあります。
好ましからざる影響を自ら防がなければ、問題の方からやってきます。
逆に、自らのもたらす影響を予知し、その防止や緩和を検討したときには
世論と政治家が敬意を持って耳を傾けてくれるでしょう。
先を見通すことがリーダーの仕事です。
世の中が勝手に間違った道へ進んだという言い訳は通じません。
正しい道を見つけ、そちらへ人をリードすることがリーダーの役割です。
問題の発生を見通すことのできた組織には
不人気なことを行う責任があります。
たとえ同業の反対があっても、問題を検討し、解決策を明らかにし、そのためのロビー活動まで行わなければなりません。
これまでこの責任を全うしようとして
失敗したり傷ついたりした組織はありません。
逆に、尻込みした組織は
やがて高い代価を払わされることになります。
知っていながら行動しないことは許されません。
組織は
自らが社会にもたらす影響についての対策を含め
社会のニーズや欲求の満足を自らの機会としてとらえることが理想です。
多元社会においては、あらゆる組織が本来の意味で企業家でなければなりません。
あらゆる組織が社会のニーズを事実上の機会としなければなりません。
社会的なニーズを把握し事業機会へ転化するという責任は
今日の断絶の時代において、特に大きな意味を持ちます。
負担すなわち社会的責任とするのではなく、機会としなければなりません。
言い換えるならば
まさに機会を求めることが組織としての責任であり倫理なのです。
とはいえ、組織が自らの強みでない領域にある問題に手を出すことは、社会的に責任ある行動とはなりません。
自らの仕事に集中して社会のニーズを満たすとき
初めて社会的に責任ある行動となります。
社会のニーズを自らの業績に転換した時
最も責任ある行動をとったことになります。
社会に敏感であることは、今日の組織のリーダー個人としての責務でもあります。
組織のリーダーであるということは、多元社会のリーダーの1人であることを意味します。
彼らは自らの能力によってリーダーの地位にあります。
そのような者としての彼らに対し
社会のニーズについて徹底的に考えることを期待することは
当然のことにすぎません。
企業とそのリーダーが行うべきことは
社会のニーズを満たすことを、事業の機会とすることです。
したがって現代の組織とそのリーダーは
社会的責任などということは存在していない方が
かえってそれを果たすことができるに違いありません。
組織社会の素晴らしさは
組織とそのエグゼクティブをして
財の生産や、患者の治療や、学位の授与など量に関わる問題に責任を持たせているだけではないところにあります。
人間の生活の質に責任を持たせています。
そして実に、そのような責任こそ
組織とそのエグゼクティブにとって機会と成果の新しい次元となります。
とともに心引き締まる挑戦です。
組織内のコミュニティにおける生活については
従業員や学生自身にマネジメントさせるべきです。
しかも、組織に働く者は可能な限り意思決定プロセスに参画させることが望ましくもあります。
さもなければ、組織の現実について十分に理解させることができません。
もちろん組織は
そこに働くものに最大限の責任を要求しなければなりません。
しかし仕事の基準、仕事ぶり、成果に直接影響与えることについては
彼らに任せるわけにはいきません。
逆にそれらのものが彼らを支配しなければなりません。
もちろん、働く者が信頼しない組織は機能しません。
組織は、そこに働く者がそれぞれ自らのニーズを満たせるようにしなければなりません。
現代の組織が
そこに働く者に位置づけと役割を与えなければならないことは既に明らかです。
しかし働く者のほうも
自らのものではない目的の実現のために働かなければなりません。
今日の組織は、集中することによってのみ成果をあげることができます。
組織とそのマネジメントの力の基盤となり得るものは1つしかありません。
成果です。
成果をあげることが、組織にとって唯一の存在理由です。
組織が権限を持ち権力を振るうことを許される理由です。
このことは
組織それぞれが自らの目的が何であり
成果が何であるかを
知らなければならないことを意味します。
多元社会の組織にとっては
それぞれの目的に集中することが正当性のカギとなります。
そして、いずれの組織も
自らの目的を明確に規定するほど強くなります。
自らの成果を評価する尺度と測定の方法を具体化できるほど
より大きな成果をあげることができます。
自らの力の基盤を
成果による正統性に絞るほど正統な存在となります。
こうして
「自らの実りによって自らを知る」ことが
これからの多元社会の基本原理となります。