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院長日記

老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その1

武本 重毅

そもそも生命は老いるようにはできていません。

 

生物としての人類は、かつでないほど長生きをするようになりました。

だが、より良く生きるようになったかといえば、そうとはいえません。むしろ反対かもしれません。

過去100年のあいだに私たちの寿命は延びたものの、人生が長くなったわけではありません。少なくとも、生きるに値する人生が追加されたとはみなせないでしょう。

 

だから私たちのほとんどは

100歳まで生きることを考えるとき

今なお「滅相もない」と思わざるを得ません。

人生最後の数十年間がどういうものかを目の当たりにしてきたからです。

それがお世辞にも心惹かれるとはいえないケースが大半だからです。

 

だが、そうでなくてもいいのだとしたら?

若くいられる時期をもっと長くできるとしたらどうでしょうか。

しかも、あと数年などではなく、あと数十年長く。

最後の年月も、その前の年月とそうひどく変わらずにいられるとしたら?

そして、自分たち自身を救うことで世界を救うこともできるとしたら?

 

そんなことは夢物語だと反論してくる人は大勢います。

現代的な生活習慣が寿命を縮める元凶なのだと、そういう人たちは断言するでしょう。

 

千年また千年と歴史を刻む過程で、人間の平均寿命は確かに少しずつ延びてきました。

かつては私たちの大半が40歳まで生きられなかったのに、それができるようになりました。50歳にも達しなかったのが、届くようになりました。ほとんどが60歳を見ずに人生を終えていたのに、60の声を聞けるようになりました。この理由としては、安定した食料ときれいな水を利用できる人の数が増えたことが大きいのです。また乳幼児のうちに命を落とす者が減ったために全体の寿命が長くなりました。

 

しかし、平均寿命が上昇を続ける一方で、最大寿命のほうはそうなっていません。記録をひも解けば、100歳に達した人はいるし、それより何年か長く生きた人もいました。だが、110歳に届く人はごくわずかしかおらず、115歳を迎える人となると限りなくゼロに近くなります。

 

だから、この先もコツコツと平均値を上げていけるにせよ

最大値は動かせないという声があるのは無理のないことです。

 

ところが、それは間違っています。

長く元気でいられるようになる時代は近づいています。

単に寿命が延びるだけでなく、新たに加わった年月を健康で生き生きと幸せに暮らせる時代です。それは、皆さんが思っている以上に早く到来しようとしています。

そうなればもはや「長寿」とは呼ばれず

ただの「普通の生涯」なのです。

そして私たちは、そうでなかった昔を悲しく振り返るのです。

 

そもそも寿命の上限とは何でしょうか。

私たちと同じ分野にいる多くの研究者が、そのようなものがあるとは思っていません。

老化は避けて通れないと定めた生物学の法則など存在しないのです。

 

長い健康寿命を謳歌できる人生はすでに射程圏内に入りました。

確かに、人類の歴史すべてがそれは無理だと告げているかのように思えます。

だが、今世紀に入ってこの研究分野では様々な解明が大きく進みました。

それを踏まえる限り、過去がどれだけ八方ふさがりであろうと何の参考にもなりません。

 

これは、人類が初めて空を飛ぶ前に世間が考えていたことと同じです。

実際に誰かが成功して初めて、人々は見方を改めました。

今現在起きつつあることは、ライト兄弟が作業小屋で準備を進めている段階に似ています。

これから世界は変わろうとしています。

 

私たちは今、同じような歴史の転換点に立っています。

これまで魔法と思われていたことが現実になるのです。

人間とは何かということを定義し直す時かもしれません。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。