老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その2:老化の「典型的特徴」
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私たちは何を知っているのか(過去):老化の統合理論に向けての歴史と挫折
ピーター・B・メダワーとレオ・シラード(1950-60年代)は、それぞれ独自に同じような理論を提唱しました。
「老化の原因はDNAが損傷すること。それに伴い遺伝物質が失われること」
遺伝子の突然変異が蓄積されると老化が引き起こされるというこの考え方は、1950年代から60年代にかけて科学者と大衆の支持をともに得ました。当時は核実験が盛んに行なわれていたため、放射線がDNAにどういう影響を与えるかが世間の大きな関心事だったからです。
もちろん、放射線を浴びれば、細胞にどんな害が及んでもおかしくはありません。
しかし、放射線では、老化の過程で観察される徴候や症状の一部しか説明できませんでした。
レスリー・オゲールは「エラー破局説」(1963)を引っ提げて老化を説明しようとしました。
「DNAを複製する過程でエラーが生じると、それが遺伝子の変異につながる」
デナム・ハーマンは「老化のフリーラジカル説」を思いつき、生涯の大半を捧げて、この仮説の検証に取り組みました。
「フリーラジカル(遊離基)の電子が細胞内を飛び回ってDNAを参加させて傷つける。特に損傷が激しくなるのがミトコンドリア内である」
また体内のフリーラジカルの活動を抑えるために、抗酸化物質のα-リポ酸を大量に摂取していたようです。
私が熊本大学大学院生として研究者への道を歩み始めた頃、ヒト細胞のクローンを作る研究が盛んとなりました。
体細胞の核を生殖細胞に移すことでクローンが誕生するのだから、老化は核DNAの変異によるものではありません。
「抗酸化物質」が寿命を延ばす効果があるかというと、結果はそうでもありませんでした。平均寿命は延びても、最大寿命の増加を示す個体が出てきませんでした。
また「遺伝子変異」は「老化の原因」ではない証拠となりました。
老化研究の分野でも、この研究を牽引する主要な科学者たちが、老化の唯一の原因は存在しないという玉虫色の見解、すなわち
老化も、老化に伴う病気も、老化の「典型的特徴」が組み合わさった結果であると考えた時期もありました。
その特徴とは、
–DNAの損傷によってゲノムが不安定になる
–染色体の末端を保護するテロメアが短くなる
–遺伝子スイッチのオンオフを調節するエピゲノムが変化する
–タンパク質の正常な働き(恒常性)が失われる
–代謝の変化によって、栄養状態の感知メカニズムがうまく調節できなくなる
–ミトコンドリアの機能が衰える
–ゾンビのような老化細胞が蓄積して健康な細胞に炎症を起こす
–幹細胞が使い尽くされる
–細胞間情報伝達が異常をきたして炎症性分子がつくられる。
これらの典型的特徴のリストが完全だというわけではありません。
それでも、これを足掛かりにすれば、長く健康に生きるためのかなり強力な作戦マニュアルができるでしょう。