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院長日記

老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その7:万人を蝕む見えざる病気

武本 重毅

老化は疾患である

2010年は画期的な年となりました。

世界屈指の研究機関を代表する19人の科学者が発表を行いました。

その過程で、次第に1つの大胆な見解へと総意が傾いていき

最終的には

健康と病に関する従来の見方に異議を唱える主張を打ち上げました。

「生物の老化について明らかになった数々の事は全て、たった1つの重大な決断を指し示している。それは、老化は避けて通れないものなどではなく、幅広い病理学的帰結を伴う疾患のプロセスだ」ということです。

平たく言えば

そしてより一層思い切った言い方をするならば

老化そのものが1個の疾患なのです。

こういう風に捉えると

心臓病アルツハイマー病

一般に加齢と関連付けられる他のいろいろな状態も

それら自体が病気なのではなく

もっと大きい何者か(老化)の個々の症状に過ぎないことになります。

生きている以上、歳をとることは避けられません。

私たちを断崖絶壁まで追い詰めるのは老化です。

100年かそこら与えられれば、誰もが必ずそこまでたどり着きます。

高齢になればなるほど

怪我や病気によって死へと追いやられる時間は短くなっていきます。

私たちは次第に崖の縁へ縁へと押されていき

ついにはそよ風が吹いただけでも向こう側へ送られます。

体が衰えるとはまさしくそういうことです。

それと同じことをする病気があれば

肝炎であれ腎臓病であれ、あるいはメラノーマであれ

世界で最も致死性の高い疾患のリストに載るでしょう。

なのに科学者は

私たちの身に起きることを「回復力の低下」で片付けようとします。

私たちのほうも概ねそれを

人間である以上仕方のないこととして受け入れています。

人間にとって、老化する以上に危険なことなどありません。

にもかかわらず

私たちはそれが猛威を振るうに任せ

もっと健康になろうと別の方向を見て闘っているのです。

老化の最終段階は

陸上トラックにハードルがいくつも並んでいて

そこを全速力で走っていくようなものです。

ハードルは次第に高く、次第に間隔が狭くなっていきます。

いずれハードルの1つは私たちを転倒させます。

 

いちど倒れてしまったら

仮にその時は立ち上がれても、再び転倒する確率は増すばかりです。

ハードルを1つ取り除いたところで

行く手の危うさが減るわけではありません。

だからこそ

個々の病気を治療するという現行の対処法ではうまくいかないのです。

高額な医療費がかかる上に

健康寿命を大幅に伸ばす上では全く役に立ちません。

私たちに必要なのは、ハードルを全て取り払ってくれるような医療です。

研究や統計などに頼らなくても何が起きているかは分かります。

周りを眺め回してみればいいのです。

しかも

歳をとればとるほど、それが目立つようになっていきます。

私たちは50歳になると親に似てきたことに気づき

白髪もシワも増えていきます。

65歳になり

まだ何の病気にも体の不自由にも苦しんでいなければ

自分は運が良いと考えます。

80歳になってもまだ世を去っていないとしたら

ほぼ間違いなく何らかの疾患と闘っています。

すでにそのせいで生活は以前より困難に、以前より不快に、以前より楽しくなくなっているはずです。

ある研究によれば、85歳の男性は平均4種類の病気の診断を受けています。

同年齢の女性の場合はそれが5つです。

心臓病がん

関節炎アルツハイマー病

腎臓病糖尿病

正式な診断をもらっていなくても

それ以外に複数の症状を抱えている患者がほとんどです。

例えば高血圧虚血性心疾患心房細動認知症などです。

老化はこれら全てに共通するリスク因子です。

いやむしろ、それこそが唯一のリスク因子なのです。

この重要さに比べたら、他のことなどどうでもいいと言いたくなります。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。