NMNがはたらくミトコンドリア その6:ミトコンドリアDNA変異と老化
ミトコンドリアは
赤血球を除くほぼ全ての全身の細胞に存在し
人間のエネルギー代謝の中核として働いているため
その障害により
脳
心筋
骨格筋
をはじめとした
全身の臓器障害が起こり得ます。
ミトコンドリア病の原因として
大半の症例でミトコンドリアDNAの変異が認められます。
しかし,同じ変異を有していても
すなわち同一家系内でも
症状・重症度に幅があることが通例で
脳卒中様発作のような典型的な症状を示さず
糖尿病や難聴
心筋症のみを呈する患者も多いのです。
これは,核DNAと異なり
ミトコンドリアDNAは1 つの細胞内に数千コピーが存在するため
野生型と変異型が混在しており(ヘテロプラスミー)
変異型がある割合を超えた場合にのみ
ミトコンドリア・細胞機能障害が顕在化し発症する(閾値効果)ためです。
また同じ病型(表現型)であっても
必ずしも同一の遺伝子変異が検出されるとは限らず
他のミトコンドリアDNA変異あるいは
ミトコンドリア機能に関わる核DNAの変異が原因となることもあります。
ミトコンドリア病を疑う契機としては
それぞれの病型に特徴的な症状
脳卒中様発作や
小脳失調・ミオクローヌス等が出現した際が多いのですが
易疲労性
低身長
難聴
筋力低下(ミオパチー)
心筋症
不整脈(伝導障害)
糖尿病
腎・尿細管障害
などといった
ミトコンドリア病に共通してよくみられる症状(部分症)が
診断の手掛かりとなることも多いのです。
成人のミトコンドリアDNAに関連した疾患に共通してみられる症状として
中枢神経系:脳卒中、けいれん、片頭痛、認知症、精神症状
骨格筋:筋力低下、易疲労性
心臓:心伝導障害(不整脈)、心筋症
肺:低換気、誤嚥性肺炎
膵臓:糖尿病
内分泌:早発卵巣不全、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症
眼:白内障、網膜色素変性、視神経萎縮(視力低下)、外眼筋麻痺(複視,眼瞼下垂)
耳:感音性難聴
腎臓:腎不全、尿細管障害
その他消化管機能障害(麻痺性イレウス)、肝障害、貧血
などがあります。
このように
ミトコンドリアDNAの異常は
まさに組織や臓器の老化と関連していると考えられるのです。
実際に、老化において
変異ミトコンドリアDNAの蓄積が観察されているのです。
ミトコンドリア病の多くは
ミトコンドリアDNAの先天的な変異によるもので
小児症例が過半数を占めますが
青中年期での発症例も多くあります。
さらに
糖尿病や心筋症ならびに
腎症等を合併しやすいため
そして
最近の聚楽内科クリニックの院長日記で
取り上げていますように
ミトコンドリアは
健康長寿になくてはならない
細胞内小器官ですから
患者さんと向き合う際には
ミトコンドリアDNAのことまで考える診療を心がけています。