糖尿病治療だけでない GLP-1受容体作動薬
以前の院長日記(2022年2月16日)で
SGLT2阻害薬
そして
イメグリミン塩酸塩(ツイミーグ)
についての話題を取り上げました。
実際にSGLT2阻害薬の慢性心不全治療あるいは慢性腎臓病治療への応用
そしてイメグリミン塩酸塩(ツイミーグ)のミトコンドリア機能改善薬としてのはたらきは
NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)治療効果と重なるところがありました。
今回取り上げるのはGLP-1受容体作動薬
セマグルチド(ウゴービ)です。
肥満症の治療薬として2023年3月27日に承認されました。
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)はインクレチンと呼ばれる小腸から分泌されるホルモンの一種で
「痩せるホルモン」とも呼ばれます。
そのため、痩せている人は、GLP-1を分泌しやすい体質だと考えられています。
インクレチンは、インスリンの分泌を促進する働きを持っており
インスリンが分泌されると血糖値が下がり満腹感が持続します。
さらに、体の代謝を向上させことにより太りにくい体質にする効果が期待できます。
セマグルチド(ウゴービ)は週に1回、注射で投与する薬で、
脳に働いて食欲を抑える効果と、
胃の動きを抑える効果(食べてすぐにおなかいっぱいだと感じる効果)があります。
日本人を対象とした治験では、生活習慣の改善とともに使うことで約10%以上の体重減少効果が報告されています。
ただ、吐き気や嘔吐、下痢や便秘などの副作用があり、
胃のムカつきを感じたり、食事がおいしくなくなると感じる人もいるので、その点を理解する必要があります。
セマグルチドはGLP-1と94%のアミノ酸配列の相同性を有するヒトGLP-1アナログであり
脳の食欲調節機構に対して作用することなどにより、肥満症患者に対する体重減少効果を発揮します。
また、アルブミンと結合して代謝による分解の遅延および腎クリアランスの低下を示すと考えられており
さらに、アミノ酸置換によりジぺプチジルペプチターゼ(DPP)-4による分解に対して抵抗性を示すことで作用が持続します。
ウゴービは週1回、自分で皮下注射するタイプの薬で、
高い減量効果が認められており、投与68週間時点で13%程度もの体重減少が期待できます。
ウゴービと同一成分(セマグルチド)の薬剤には
週1回投与の注射製剤(オゼンピック)および1日1回投与の経口製剤(リベルサス)が
既に「2型糖尿病」の効能・効果で使用されています。
ウゴービとオゼンピックとの違いは、その最大投与量です。
オゼンピックが1.0mgであったのに対し、ウゴービは最大2.4mgの投与が可能であり
その食欲抑制効果と胃の蠕動運動抑制効果による体重減少効果はかなり大きいことが予想されます。
適応は
「肥満症(ただし、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない次の①②に該当する場合に限ります。
- BMI≧27kg/m2であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する、
- BMI≧35kg/m2)」
用法用量は
「成人に週1回0.25mgから投与開始し、4週間の間隔で週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、以降は週1回2.4mgを皮下注します。なお、患者の状態に応じて適宜減量することになります」
肥満は、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、肥満度を表す体格指数(BMI)で、日本では25kg/m2以上、世界保健機関(WHO)では30kg/m2以上を肥満と定義しています。そして、肥満があり、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする病態が「肥満症」です。
「肥満症」の治療には、食事療法、運動療法および行動療法からなる生活習慣の改善で減量を図るのが基本ですが
効果不十分または合併症の改善が認められない場合には、外科療法や薬物療法が行われています。
このうち薬物療法では
1992年から使用されている食欲抑制薬のマジンドール(サノレックス)が使用されていますが
BMI≧35kg/m2の患者のみの使用であり
満腹中枢に働きかける薬で覚醒剤のアンフェタミン類と類似していることから禁忌となる患者が多く
さらに依存症のリスクが高いため
副作用の問題から治療選択肢が限られていました。