アセトアミノフェンとアスピリンによる慢性尿細管間質性腎炎
一昨日の院長日記続編です。
わたしは特別養護老人ホーム入所者の診療も
生業としております。
その多くが前のかかりつけ医師からの処方を
継続する形になります。
しかし、その中でレセプトが審査で切られ保険診療を得ることができない場合が少なくありません。
今回そのような症例の一人について深く掘り下げてみました。
慢性腎不全でない高カリウム血症(高K血症)治療に対して
ポリスチレンスルホン酸カルシウム液(カリメート)で加療されていた高齢者です。
大動脈弁狭窄症に対してTAVI施行され
バイアスピリンを内服しており
高血圧症に対してはカルシウム拮抗薬と利尿薬で治療中でした。
変形性膝関節症に対してアセトアミノフェン(カロナール)が
長期にわたり投与されていました。
レセプトが返戻され再請求も却下された理由は「カリメート使用できるのは慢性腎不全だけ」ということでした。
カリメートを減薬すると高K血症になります。
高K血症の原因として消炎鎮痛薬など薬剤が考えられましたので
アセトアミノフェンを止めてみたところ
高K血症が軽快したと思ったら
すぐに患者さんは両膝の痛みを訴え、立つことができなくなる始末。
そこでアセトアミノフェンによる
高K血症を伴う腎障害について調べました。
そして浮上してきたのが
慢性尿細管間質性腎炎です。
詳しく調べてみたところ、非アレルギー性の慢性尿細管間質性腎炎の場合、尿細管上皮細胞内への薬剤やその代謝産物の蓄積とそれに伴う低酸素状態や活性酸素の関与が示唆されています。鎮痛薬による腎障害の正確な病態機序は不明ですが、遠位ネフロンを中心に障害を認めるようです。有名である腎乳頭壊死の発症仮説として、複数の鎮痛薬(多くはアスピリンとアセトアミノフェンなどの複数薬の服薬、合剤の服用)の代謝産物の濃度が腎髄質深部である腎乳頭で濃縮されることにより発症する、相乗毒性と考えられています。
慢性尿細管間質性腎炎は、慢性の尿細管障害による緩徐とした間質の浸潤と線維化、尿細管萎縮と機能障害、および腎機能の通常数年にわたる緩徐な悪化がもたらされた場合に発生します。糸球体の同時関与(糸球体硬化症)は、急性の場合に比べて、この慢性尿細管間質性腎炎においてはるかに一般的にみられるということです。
慢性尿細管間質性腎炎では、間質の炎症だけでなく線維化(硬化)によって腎機能が緩やかに低下していくことがあり、貧血を合併する場合もあります。また、尿細管が傷つくことで、尿を作り出す過程での濃縮や、電解質(ナトリウムやカリウム)や酸の調整・排出がうまくできなくなります。そのため、脱水症状を引き起こしたり、高K血症やアシドーシス(血液中の酸が増加した状態)を生じたりすることもあります。
実際この女性は、長期間にわたるバイアスピリンとカロナール内服が続いており
今回なぜ高K血症が続くのかを解明したいと調べた結果
まさにこの慢性尿細管間質性腎炎の状態(慢性腎不全に至っておらず軽症の段階)であると考えられました。
慢性尿細管間質性腎炎の治療にはしばしば支持療法が必要になり
具体的には血圧コントロールや
腎疾患に合併する貧血の治療などがあります。
慢性尿細管間質性腎炎および進行性腎障害を有する患者では
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬または
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)により
疾患の進行が遅延する可能性がありますが
高K血症および進行促進の相加的リスクがあるため
これらを併用してはならないということです。