「長生き」と「美容」を獲得するために ⑥: NAD+の前駆体NMN
抗酸化物質であるレスベラトロールに関する実験を行ったところ
研究者たちは信じがたいものを目の当たりにしました。
レスベラトロールは
数十種類の病気ー種々のがん・心臓病・脳卒中・心臓発作・神経変性・炎症性疾患・創傷治癒等
に対して予防効果を発揮したのです。
運動やカロリー制限と同じ効果を発揮し
空腹なしに寿命を延ばせるものが見つかってみたら
それが赤ワインの瓶の中に入っていたというのですから...
まるでジョークのオチみたいな話です。
薬としては限界があったのですがレスベラトロールの価値は大きいのです。
空腹にならずともカロリー制限のメリットを1種類の分子で得ることができるという
最初の重要な証拠を与えてくれたからです。
レスベラトロールを通じて研究者たちがもう一つ学んだのは
サーチュインは化学物質で活性化できるということでした。
レスベラトロールの効果が明らかとなり
これを機に
レスベラトロールより何倍も効果が高いサーチュイン活性化化合物を探そうと
一斉に研究がスタートしました。
今日ではレスベラトロールより強い作用の確認されたサーチュイン活性化合物は何百とあります。
NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)も、その一種です。
NAD+には他のサーチュイン活性化化合物にはない利点があります。
7種類あるサーチュインすべての活動を高めてくれるのです。
そしてついに1990年代になり、
NAD+が数々の重要な生体プロセスを調節する上でカギを握る物質だということが判明しました。
そのプロセスには老化や病気も含まれます。
なぜそれがわかったかというと
NAD+がサーチュインの燃料になることを今井眞一郎とレニー・ガレンティが突き止めたからです。
十分な量のNAD+が存在しなければサーチュインはうまく仕事ができません。
ヒストンからアセチル基も外せなければ
遺伝子も抑制できず
寿命も長くできません。
レスベラトロールがサーチュインを活性化させて寿命を延ばすのも
NAD+があればこそだったのです。
21世紀に入り
このアンチエイジングへの道は一気に開かれました。
2004年のこと
ビタミンB3の一形態であるNR(ニコチンアミドリボシド)が
きわめて重要なNAD+の前駆体のひとつであることが発見されました。
NRは牛乳に微量に含まれている物質ですが
NAD+を増加させます。
一方
別のNAD+前駆体であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)についても研究が進められました。
これは
人間の細胞内でもつくられており
アボカド、ブロッコリー、キャベツなどの食物にも含まれています。
体内ではNRがまずNMNに変換され、次にそれがNAD+に変わるのでした。