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院長日記

高齢者の抜歯のリスク

武本 重毅

わたくしは日本抗加齢医学会に所属しており、外来通院されている患者さまの最高齢は百一歳です。この百寿者さまが百十歳以上のスーパーセンチナリアンになられるのを楽しみに診療させていただいております。

日本には現在9万8,000人を超える百寿者がおられ、今後増え続けると予想されています。その中で、高齢者研究が進んでおり、免疫状態、創傷治癒状態、臓器別の老化状態等についての知見が蓄積されてきました。それを踏まえた上で、百寿者の抜歯が、その後の健康リスクにならないのか心配です。

抜歯は高齢者に限らずそれなりのリスクを伴うということです。抜歯は歯槽骨を口腔内に露呈する行為ですから、どの年代でも感染症などのリスクがあります。高齢になるほど感染症のリスクがあります。

歯槽骨が硬くなり抜歯に時間がかかり、歯がもろければ残根となり、傷口の治りが遅く痛みが長引き抜歯跡が残ることもあるようです。抜歯後の状態が良くないということは是非とも避けなければなりません。

免疫機能が落ちていなくても心臓に持病を抱えている場合、感染性心内膜炎を発症しやすくなります。骨粗しょう症で治療中の場合は、薬の影響で抜歯後、歯槽骨が腐敗してしまうことがあります。認知症を患っている場合、歯科治療自体が難しくなることもあります。

 

さらに高齢者になってくると老化にともなう色々な臓器障害がおこっており、薬の影響が強く出る場合があります。

心臓病脳卒中は抜歯に関して注意が必要です。心筋梗塞脳卒中の疾患がある方は血液をサラサラにするお薬を服薬していることが多く、これらの薬を飲んでいると、症状によっては血が止まりにくくなり、抜歯の後の治癒が遅れてしまうことがあります。

また高齢者は腎機能が低下しており、抜歯の痛みを抑えるための解熱・鎮痛薬で腎機能が悪化してしまう場合もあります。

高齢者の場合、リスクを考えて虫歯や歯周病があっても抜歯しないと判断することも必要ではないでしょうか。

介護施設ではたらく皆さま、できるだけ歯を残してあげるように、お口の環境を整えていただきますよう、宜しくお願い致します。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。