エビデンスに基づくがん予防:栄養と食事
どのようなタイプの研究手法であれ、単独の研究で得られた関連は、偶然・偏りなどによる可能性を否定できないために、複数の研究に基づいて因果関係の有無を評価する必要があります。
最も信頼性の高いエビデンスは、ランダム割付による介入型の研究(ランダム化比較試験)から得られます。
その中で、これまでに次のようなことが明らかになっています。
① β-カロテン、ビタミンE、ビタミンCなどの抗酸化栄養素には理論的に期待された、がん予防効果はない
② 高用量のβ-カロテンやビタミンEについては、一部のがんや脳血管疾患のリスクが上がる
③ 成人期での脂肪摂取量(脂肪エネルギー比率)の減少は、乳がん・大腸がんを予防しない
次に信頼性の高いエビデンスを提示するのがコホート研究です。
世界がん研究基金は、食事関連要因とがんとの因果関係について、継続的に因果関係評価を実施しています。
「確実」あるいは「おそらく」と判定されている食事関連要因(アルコール、肥満、身体活動などを除く)とがんの部位についての要約が下の表1に示されています。
因果関係評価の現状に基づいて、以下のようながん予防のための食事アドバイスが提言されています。
① 体重を適正に保つ
② 身体を活動的にする
③ 全粒穀類、野菜、果物、豆類を食べる
④ ファストフードを制限する
⑤ 赤肉・加工肉を制限する
⑥ 砂糖入りの飲み物を制限する
⑦ アルコール摂取を制限する
⑧ がん予防のためにサプリメントを用いない
日本においても、1990年前後より数万~十数万人規模のコホート研究が複数実施されており、エビデンスが数多く報告されつつあるようです。
国立がん研究センターの研究グループでは、日本人のエビデンスに基づいた因果関係評価を継続的に実施しています。その要約が下の表2に示されています。
「ほぼ確実」と判定されているのは次のような食事要因(がんの部位)です。
① 塩蔵食品(胃)、熱い飲食物(食道)がリスクを上げる
② 野菜・果物(食道)、コーヒー(肝臓)がリスクを下げる
また「可能性あり」として、
① 緑茶(女性の胃)がリスクを下げる
② 大豆・イソフラボン(乳房、前立腺)がリスクを下げる
など日本人に特徴的な食事要因が示されています。
最後に、食事以外のアドバイスとしては、禁煙、節酒、体型維持、身体活動、感染対策が示されているようです。
(津金昌一郎先生:アンチエイジング医学の基礎と臨床 第4版 p251-252 より)