Director's blog
院長日記

老化に関する新しい考え方

武本 重毅

私たちが聚楽内科クリニックで現在取り組んでいるアンチエイジング治療について、皆さまに理解していただけるように、最近の話題をご紹介していきたいと思います。

本日ご紹介するのは、金沢大学がん・老化生物学研究分野の城村由和教授が昨年書かれた総説からの引用です。わかりやすい表現に変えてみます。

老化は生物に起こる普遍的な生命現象であり、避けることはできません。広辞苑によれば「年をとるにつれて生理機能がおとろえること」や「時間の経過とともに変化し、特有の性質を失うこと」と定義されています。

老化のプロセスは非常に複雑で、高分子、細胞、組織・臓器、全身統合システムといった生物のさまざまなレベルで、多くの異なる変化が並行して同時に起こっています。このように老化していく結果として、何が起こっているのかを目の当たりにする機会は多く、老化そのものは理解できるのですが、なぜ老化が進行するのか、その原因や老化をコントロールすることについてはほとんど解明されてきませんでした。

多くの生命科学者が、老化に伴うさまざまな変化を「時間の経過とともに損なわれる当たり前のプロセス」ととらえ、行き当たりばったりで起こるものだと考えていたために、精力的に研究が行われてこなかったことが、その理由の一つです。

しかし分子遺伝学研究の急速な発展により、20世紀後半から出芽酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスといったモデル生物を用いた研究成果が次々に発表されて、老化・寿命に関する研究が大きく進展しました。

そして現在、老化のプロセスは他の多くの生物学的プロセスと同様に、何ら特別なものではなく、古くから知られているシグナル伝達経路、転写因子、さらにはエピジェネティクス因子による制御を受けることが明らかになるとともに、ごくありふれた単純な環境および遺伝的介入によって、寿命を延ばし、老化時の健康状態を改善できることもわかってきました

その一方で、正常細胞ががん遺伝子活性化酸化ストレスDNA損傷などのさまざまな外的・内的要因によるストレスを受けると、一時的な細胞周期停止やアポトーシスに加え、細胞老化が誘導されることが知られるようになりました。

興味深いことに、加齢に伴いさまざまな組織・臓器に老化細胞が蓄積することが報告されていますが、遺伝工学的手法を使ってマウス生体内の老化細胞を除去することができると、加齢性疾患の改善健康寿命の延伸が見られるようになりました。これらのことから、細胞老化は個体老化の主要因の一つであると考えられるようになり、近年注目を浴びています。

城村由和 週刊医学界新聞(通常号):第3499号

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。