1ヵ月前に放送されたNHKクローズアップ現代から
今回ご紹介するのは1ヵ月前NHKのクローズアップ現代で放送された内容です。
これを見た皆さんは10月9日に全国の書店に並ぶわたしの新書
老化は「治る」
の趣旨を理解していただけると思います。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240903/k10014569311000.html
不老不死の薬を探させたという秦の始皇帝。
永遠の若さを手に入れたいと願ったとされる古代エジプトの女王クレオパトラ。
「不老長寿」は「人類の永遠の夢」とも言われてきました。
始皇帝やクレオパトラが生きた時代から2000年以上の時が経ったいま、老いにあらがい、健康に生きられる時間を少しでも延ばそうという研究に、巨額のマネーが投じられ、世界の一流の研究者たちがしのぎを削っています。
ある世界的な研究者は私たちの取材に「老化を遅らせ、寿命を延ばす『抗老化』は、もはやサイエンスフィクションではない」と熱く語りました。
世界の研究者たちは、どうやって老いにあらがおうとしているのか?そこにある課題は?研究の最前線を取材しました。
(市毛裕史・佐々木良介・森渕靖隆)
世界でうごめく“抗老化”マネー
盛り上がりの背景にあるものは
背景には、単にいつまでも若くありたいという人々の願望だけではなく、日本などが直面する高齢化社会の課題を解決できるのではないかという期待もあるといいます。
それは「平均寿命」と、介護などを受けずに、社会生活を送ることができる「健康寿命」の差を少しでも縮めるということです。
しかし、男女ともに80歳を超えている「平均寿命」と、
「健康寿命」の間にはおよそ10年もの差があります。
この傾向は欧米などでも同じです。
差にあたるおよそ10年は、日常生活に制限があり、例えば、介護を受けたり、人によっては寝たきりの状態だったりするかもしれません。
10年もの差が生まれてしまう大きな要因は、認知症や心不全など老化にともなって発症率が上がる加齢性の病気だと言われています。
これに伴って加齢性の病気にかかる人も増えていくと考えられます。
しかし、もし加齢性の病気を発症する前に、細胞や臓器の老化そのものを食い止め、健康で生活できる期間を延ばすことができれば・・・。
その経済的・社会的な影響は極めて大きいと考えられているのです。
健康寿命延伸へ 抗老化研究の“戦国時代”
1つ目が、「老化細胞」を取り除くアプローチです。
細胞は分裂を繰り返していますが、老化細胞というのは、分裂が止まった細胞のことで、高齢者にはもちろん、若者にも赤ちゃんにも存在します。
老化細胞は本来、体にとって不要なため、ほとんどは免疫により取り除かれます。
しかし、一部は体に残り続け、年齢を重ねるにつれて体内に蓄積されていきます。
老化細胞の中には炎症を引き起こす物質を分泌するものがあり、周囲に広がっていきます。
炎症が全身で起き続けることで、臓器や組織の機能低下を引き起こし、がんや動脈硬化などさまざまな加齢性の病気にかかりやすくなっていると考えられています。
マウスの実験で老化細胞を取り除くと病気が改善し、寿命が延びたという結果が報告され、老化制御につながると期待が高まっています。
2:老化を遅らせる物質「NMN」
実用化に最も近いとされているのが、老化を遅らせる物質「NMN」に着目した研究です。
この分野の第一人者としてアメリカで研究を進めているのがワシントン大学の今井眞一郎卓越教授です。
NMNはビタミンに似た物質で、もともとあらゆる生物の体内に存在しています。
そこで、今井さんは人為的に補充することで老化を抑えることができるのではないかと考えました。
今井さんによると、マウスにNMNを作り出す酵素を投与すると高齢になっても活動が衰えないことがわかってきたと言います。
この結果に着目した企業がヒトへの臨床研究が義務とされていないサプリメントとして商品化を始めています。
3:細胞機能の再活性化
そして最も多くの投資を集めているとされるのが、加齢によって変化してしまった細胞の機能を再活性化し、臓器の機能を改善する「リプログラミング」と呼ばれる研究です。
京都大学の山中伸弥教授が、細胞の機能を初期化する4つの遺伝子を発見したことをきっかけに進んだ研究とされています。
例えば、もともと皮膚だった細胞に4つの遺伝子を送り込んで、2週間から3週間働かせると、いろいろな組織や臓器の細胞に分化する能力を持つiPS細胞になります。
これは完全に初期化した状態で、皮膚の細胞ではなくなります。
この初期化の動きをうまく途中で止めることができれば、例えば60歳の皮膚の細胞が30歳の皮膚の細胞に戻るのではないかという研究が進められているのです。
取材後記 抗老化研究を希望とするために
アメリカで研究を続ける今井眞一郎さんは抗老化研究について、ギリシャ神話の「パンドラの箱」になぞらえて表現します。
パンドラの箱から最初に出てくるのは苦痛・苦しみ・厄災で、最後に希望が残っていたという話です。
抗老化研究も最初は社会に厄災をもたらすかもしれないと指摘します。
資金があり、抗老化医療を手に入れた者と、そうでない者との健康格差など社会的な問題が起こる可能性もあります。
しかし、研究者は最終的には恩恵を受けられる人を増やす希望を実現するために研究を続けていると話していました。
取材を進める中で、そんなに長生きしたいのかという疑問の声も聞きました。
どれだけ長く生きたいかということ自体、一人ひとり答えが違うかもしれません。
一方で、老化によって引き起こされる病気の治療法が確立され、死ぬその時まで健康に生きていける技術が実現できれば、広くすべての人が享受すべきことのように思えます。
今後、さらに研究開発が進むことを期待したいですし、老いを取り巻く社会の課題についても取材を続けていきます。