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院長日記

酸素の毒性:有害な酸素環境下で生存するための進化⑧ 人間の低酸素適応

人間の全身の低酸素適応は、

組織レベルでの酸素供給の増加酸素需要の減少につながります。

 

酸素供給を増強する急性の生理学的変化には、

頸動脈小体の化学受容細胞を介した過換気

全身の血管拡張

心拍出量の増加などがあります。

肺動脈だけは低酸素症に反応して血管収縮し、

低酸素性肺胞から血液を遠ざけ、換気と灌流の不均衡を修正することができます。

 

より慢性的な低酸素状態への適応としては、

HIF-2αの安定化を介した赤血球生成

血管新生

全身の酸素消費の抑制

食物摂取量の減少

体温の低下などがみられます。

慢性の低酸素症は、

ヘモグロビンの酸素解離曲線を右にシフトさせ、

2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)も増加させて、

より低い酸素分圧でも末梢組織における酸素放出を促進します。

 

また興味深いことに、

人間のエリート無呼吸ダイバー (例: 韓国のダイビングプロの女性) は、

潜水哺乳類であるウェッデルアザラシ(Leptonychotes weddellii)のように

深海潜水中の脾臓の収縮により長時間の息止めに適応し、

一時的に循環赤血球数を増やすことができるそうです。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。