水素吸入療法 その12:水素の標的となる活性酸素
では、次に、水素が標的とする活性酸素種(ROS)について学んでみましょう。
活性酸素種は、ミトコンドリアでたくさんのATPを生み出す過程でどうしても発生してしまう副産物です。
私たち人間が、ミトコンドリアで産生したATPをあらゆる活動の源としている以上、この副産物の発生は避けることができません。
しかし、活性酸素種は、ミトコンドリアすらも傷つけ、老化させます。
しかも、老化したミトコンドリアでは、活性酸素種の発生量も増えます。
ひとたび老化が始まると、加速度的に進行していくのは、老化したミトコンドリアが活性酸素種を多く発生させていくからと考えられています。
通常、原子は原子核を中心として、各電子軌道に2個の電子が対になって存在しますが、まれに対になっていない電子があります。
これを不対電子といい、この不対電子をもつ分子や原子をフリーラジカルといいます。
不対電子は対になろうとするため、フリーラジカルは一般に不安定で高い反応性があります。
一方、酸素も、上の図に示したスーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルのように、
酸素分子がより反応性の高い化合物に変化しており、これらを総称して活性酸素種(ROS)と呼びます。
さらに通常の酸素分子[三重項酸素(3O2)]とは異なった電子配置を有する一重項酸素(1O2)も代表的な活性酸素です。
たとえば、過酸化水素は活性酸素ですが、不対電子を持たないためフリーラジカルではありません。
ただし、過酸化水素は鉄などの遷移金属の存在下では容易に1電子還元され、ヒドロキシルラジカルを生じるため、重要な活性酸素として位置づけられています。
活性酸素種は、ミトコンドリアが酸素を燃焼させてATPを生み出す際に必ず発生します。
呼吸によって取り込んだ酸素のうち、約2パーセントが活性酸素種に変化する、ともいわれています。
体内では、
ミトコンドリアでの電子伝達系からの電子の漏出
好中球とマクロファージ活性化によるNADPHオキシダーゼの活性化
虚血−再灌流時のキサンチンオキシダーゼの活性化
カテコールアミンの自動酸化
などによって、スーパーオキシドが産生されます。
スーパーオキシドはSOD酵素により、或いは非酵素反応により過酸化水素になります。
過酸化水素が消去されないと、ミエロペルオキシダーゼ存在下で次亜塩素酸になり
また、過酸化水素は2価鉄(Fe2+)の存在下ではヒドロキシラジカルを生成します。
この鉄の由来は血管内皮細胞に存在する貯蔵鉄と、白血球の特殊顆粒に存在するラクトフェリンが考えられています。
SODで消去できなかったスーパーオキシドが3価鉄(Fe3+)を2価鉄(Fe2+)に還元させる物質として働き、
その2価鉄(Fe2+)が過酸化水素と反応してヒドロキシラジカルを生成するとされ、
幾つかの病気では金属イオンの押さえ込みが不十分で遊離するといわれています。