水素吸入療法 その19:新しい水素投与方法についての論文⑦
水素(H2)は細胞中ではヒドロキシルラジカル(·OH)のような酸化力の強い物質を消去しますが、
代謝は常時行われているために、ヒドロキシラジカルを効果的に消滅させることは大変困難でした。
例えば、水素水では1L中に含まれる水素量は、最大(飽和濃度の水素水)でも気体換算で18mLにすぎません。さらに、一般の水素水の濃度は飽和濃度よりもかなり低くなっています。
また、吸収され各器官に輸送された水素は、1時間程度でなくなってしまうと報告されています。
したがって、細胞が酸化される結果発症する種々の疾患を、水素水の摂取によって防止するには無理があると思われます。
大阪大学産業科学研究所、同大学大学院医学系研究科 泌尿器科学および神経細胞生物学の研究グループは
細胞の酸化を防止するには、多量の還元剤を常時体内に存在させる必要があると考え、
還元剤である水素を体内で常時発生させることが有効であると発想しました。
そして、産業科学研究所の小林教授らは体内で水素を発生させるシリコン(ケイ素)製剤を開発し、
その製剤について、酸化ストレスが関与する疾患に対する効果を医学系研究科の島田教授らが検証しました。
シリコン(ケイ素)製剤は水と反応して水素を発生しますが、アルカリ性環境で水素発生量と発生速度が顕著に増加するという性質を持っています。
したがって、シリコン(ケイ素)製剤を摂取すれば、酸性環境の胃では水素が発生しませんが、弱アルカリ性の膵液が分泌される腸内で水と反応して、水素が発生します。
(図) に示すように、膵液と類似したpH8.3、36°Cの環境下で、1gのシリコン製剤から400mL以上の水素が24時間以上発生し続けます。
この発生水素量は、飽和水素水22L以上に含有される水素量に相当します。
以前公表したことに加えて、腸内で発生した水素は効率よく吸収され、悪玉活性酸素のヒドロキシラジカルを消滅しました。
シリコン(ケイ素、Si)の理論上の水素生成容量は1.77 L/g(反応3)で、シリコン(ケイ素)ナノ粒子は模擬消化管環境での水素生成の有効な候補であることが示されています。動物実験では、肺炎、虚血再灌流障害、パーキンソン病など、いくつかの疾患モデルにおいて、経口投与された水素生成シリコン(ケイ素)の肯定的な効果が確認されています。他の物質も研究されており、その中には、マウスにおけるメタンフェタミン曝露によって誘発される脳損傷を回復させ、酸化ストレスと神経炎症を軽減することが示されている、水素生成サンゴカルシウム水素化物が含まれます。このような技術の実現により、高用量の水素を自宅で投与することが可能になりました。例えば、65 mgのシリコン(ケイ素)錠剤から、体内で100 mLを超える水素を生成することができ、これは5 Lを超える水素飽和水を飲むのと同等なのです。