Director's blog
院長日記

ヘムとポルフィリン 7:ポルフィリン症の思い出

武本 重毅

35年余り前、熊本大学病院第二内科に入局し

血液内科医として研修を始めた頃、原因不明の貧血患者さんを受け持ちました。

いろいろ検査しても原因がわからず、英語の教科書を読んで、ポルフィリン症ではないかという仮説を立てました。

今でこそ教科書やネットで検索すればいろいろな情報を得ることができて

ポルフィリン症についても明らかになっているようですが、

当時は何もわからず手探りの状態でした。

患者さんの血液や尿、特に尿を何度も採取して、産業道路を渡って医学部基礎研究の教室へ何度も通い、特殊な検査をしながら診断をつけようと努力しました。

そして学生への臨床講義で症例提示するという話になりました。

ところがどうしても納得のいく検査結果ではなかったのです。

今の私であれば、「亜型かもしれない」「新しい疾患かもしれない」と逆にワクワクするのですが、

まだ医師になりたての私には、そのような余裕はなく、

ただただ確定診断にたどり着くことができない自分が情けなかったのです。

このため、高月 清教授に、「講義の準備をできませんでした」と謝るしかありませんでした。

今でも思い出すトラウマです。

それから35年が経ち

わたしはアンチエイジング3本の矢®️を提唱しアンチエイジング治療を積極的に推し進めています。

実は、その第3の矢:5-ALA(アミノレブリン酸)は、ヘム生合成に必要なポルフィリン体の最初に合成される成分(前駆体)です。

今のわたしは、あの35年前からの呪縛を解こうと、

海外の論文を読み漁り、最新の情報を患者さんのアンチエイジング治療に役立てようとしています。

 

ご参考までにポルフィリン症について(難病センターホームページより引用)

1.概要
ヘム代謝系に関わる8つの酵素のいずれかの活性低下により、ポルフィリン体あるいはその前駆体が蓄積することによって発症する、まれな遺伝性疾患である。現在、9つの病型に分けられる。病態の大部分が不明であり、根治療法がない。各病型間で症状にオーバーラップがあり、診断が非常に難しく、確定診断には遺伝子診断が重要である。
 
2.原因
遺伝子変異の関与は確実であるが、病態についてはかなりの部分が未解明である。
 
3.症状
光線過敏(日焼け、熱傷様症状)、消化器症状(激烈な腹痛、下痢、便秘、嘔吐、肝不全)、神経症状(痙攣、麻痺、意識障害)が主である。一度発症すれば、これらの症状は生涯続く。
 
4.治療法
光線防御、近年、急性症状に対してヘミン投与などの対症療法を行うことができるようになった。また、RNA干渉治療薬ギボシランが使用できるようになった。
 
5.予後
全身熱傷様症状、消化器症状、神経症状を起こすと予後不良である。肝不全例では肝移植が必要になる。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療費受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(遺伝子変異の関与が示唆される。)
3.  効果的な治療方法
未確立
4.  長期の療養
必要
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
研究班作成の重症度分類を用い、重症を対象とする。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。