「院長日記」記事について前立腺がん患者さまからの質問がございました
[お問い合わせ内容]
2年前に前立腺がんの小線源治療を受け、10程度だったPSAが
また、NMNの存在を知り、
貴クリニックのインターネット記事をみて、NMNが前立腺がんに
すでに小線源治療を受けており、泌尿器科、放射線科にて経過観察
なお、当方年齢は69歳です。ご教示いただけると幸いです。
[ご回答]
まず結論から言いますと、今の段階では、NMN服用が前立腺がんを悪化させるかもしれないし、しないかもしれません。
ただ、このようなリスクが拭いきれていない以上、私としては、NMN服用を控えていただきたいと思っています。
最近、一部のがん細胞ではNAD+(ニコチンアミド アデニン ジヌクレオチド)を細胞増殖に利用しているのではないか、という論文を目にするようになりました。
前回「院長日記」でご紹介した内容もその一つです。
必ずしも「前立腺がん」全ての患者さまで、NMN投与が問題になるというわけではないようなのですが、
治療が効きにくいタイプの前立腺がんに性質が変化してしまうことを避けたいという思いがあるのです。
宮城県立がんセンターのホームページに
このことを説明してくれる良い解説がありましたので、引用させていただきます。
ご参考にしてください。
神経内分泌がん(NEC)(※1)には発生する臓器によって様々なものがありますが、例えば、肺がんでは約2割、再発前立腺がんでは約4割を占める、悪性度が高いタイプのがんです。
他タイプのがんでは、原因となる遺伝子異常を狙い撃ちする治療(分子標的治療)が進歩してきました。あるいは免疫療法が良く効く場合もあります。
しかし、NECでは、どちらも上手くいっていませんでした。
宮城県立がんセンター研究所 田沼延公 部長らの研究グループは、NEC細胞におけるNADの調達戦略を調べました。
がん細胞は、その生存や増殖のために大量のNADを消費していることが知られています。
研究の結果、『NECが、NAD合成を担う酵素NAMPTの働きを抑えること(阻害)に対して極めて弱い』ことを発見しました。
【用語解説】
(※1)神経内分泌がん(NEC, neuroendocrine carcinoma)
私たちの体には、神経内分泌細胞というホルモン産生細胞がいます。
その細胞と似た性質をもつがんで、悪性度が比較的低いものをNET (neuroendocrine tumor)、悪性度が高いものをNECと呼びます。
NET、NECは体の様々な部位から発生しますが、呼吸器・消化器で多くみられます。
参考までに、スティーブ・ジョブス氏が罹患したのは、膵臓に発生したNET・NECです。
また、前立腺がんは、NECではありませんが(“腺がん”というタイプ)、
内分泌治療を続けるうちに、がんの性質が変化して治療が効かなくなり、再発することが少なくありません。
そのような再発前立腺がんの3~4割が、腺がんタイプからNECタイプへと性質が変化していることが分かっています。
(https://www.miyagi-pho.jp/mcc/kenkyu/topic/20231214/index.html)
このように、治療が効きにくい前立腺がん細胞になると、NADを喜んで(これは表現が悪いですね)どんどんがん細胞内に取り入れて利用するようになります。
どうか今後のことをよく考えて、NMN服用を続けるかどうかを、判断していただきたいと思う次第です。