SF第1話:第1章「アンチエイジング3本の矢®️」理論から1世紀後
時は21XX年。
人類はある深刻な問題に直面していた。
それは… 慢性的なエネルギー不足!
街中では、疲れ切った人々が歩き、病院の待合室は満員。
高額な新薬を求める人々が列を作っていた…。
不健康な食生活、運動不足、ストレス…。
その影響で、
私たちの ミトコンドリアの力 【註1】が衰え、病気や老化が加速していたのです!
振り返ってみれば21世紀に入り、
少子高齢化が進み、人類存続の危機と考えられるようになった。
一方、人間のゲノム解析は2003年に完了し、医療技術の進歩により利用は大きく変化した。
2004年ごろからは、世界中の科学者が「老化」研究を本格化した。
その成果は20年後には「老化に関わる12の特徴」として明らかとなり、
2024年には日本の武本重毅博士の提唱する
「アンチエイジング3本の矢®️」理論(老化は「治る」、ワニ・プラス)【註2】が出版され、
健康寿命が平均寿命と共に大幅に伸びることになった。
その結果、
人間は生物学的年齢を最大限まで伸ばし利用できるようになり、
その生物学的年齢をエピジェネティック・クロック【註3】により測定することで、
より正確な人生設計が可能となっていた。
同時に再生医療が注目を浴び、
癌治療や難病治療に対して非常に高額な新薬が登場した。
このため何歳になっても、
元気で仕事に従事することが可能となり、
さらにはオリンピックに出場して競技する百寿者の強者たちの活躍が、世界中に人々を熱狂させた。
しかし、2020年から始まったCOVID-19のパンデミックは、
その後何十年も世界的な不安と経済の低迷をもたらし、医療格差を広げることになった。
【註1】ミトコンドリアの力
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを生み出す『発電所』のような存在です。
私たちが食べ物から得た栄養を分解し、
ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー分子に変えることで、体を動かし成長します。
ミトコンドリアのおかげで酸素を効果的に使えるようになり、多細胞生物が誕生しました。
このエネルギー効率の向上が複雑な生命の進化を可能にしたのです。
副産物として有害な活性酸素も発生しますが、
若いうちは細胞に備わっている抗酸化機能がしっかり働き、
余分な活性酸素は制御されています。
しかし、加齢などでミトコンドリアの機能が劣化すると、
エネルギーを作る機能が低下するだけでなく、
過剰に発生する活性酸素を細胞が抑えることができなくなります。
その結果、
まき散らされた活性酸素がDNAを傷つけ、
たんぱく質や脂質を酸化するなどして、
老化や、老化にかかわるさまざまな病気を引き起こします。
【註2】「アンチエイジング3本の矢®️」理論
老化の原因に対して、
科学的なアプローチで立ち向かう3つの方法を組み合わせることで、
老化を「治す」ことを目指す戦略。
1本目の矢:ミトコンドリア活性化
• 目的:エネルギー産生を改善し、細胞の若返りを促進
• 手段:5-ALA(5-アミノレブリン酸)や適切な栄養素を活用し、ミトコンドリア機能を高める
• 背景:ミトコンドリアの機能低下は老化の大きな要因であり、これを改善することで健康寿命を延ばせる
2本目の矢:酸化ストレス制御
• 目的:活性酸素による細胞ダメージを防ぐ
• 手段:水素吸入療法などの抗酸化戦略を活用
• 背景:活性酸素はDNAや細胞膜を傷つけ、老化や病気の原因となるため、これを適切にコントロールする
3本目の矢:慢性炎症の抑制
• 目的:老化と病気の原因となる「炎症老化(インフラメイジング)」を防ぐ
• 手段:食事・運動・サプリメント・生活習慣の改善で慢性炎症を抑える
• 背景:加齢に伴い体内で慢性炎症が進行し、それが老化や疾患の引き金となるため、炎症を最小限に抑えることが重要
まとめ
この3つのアプローチを組み合わせることで、
老化の根本的なメカニズムを改善し、老化は「治る」という実践的なアンチエイジングを実現する。
【註3】エピジェネティック・クロック
エピジェネティック・クロック(Epigenetic Clock) とは、
DNAのメチル化パターンを解析することで、生物の 「生物学的年齢」 を測定する方法です。
これは、実際の暦年齢(カレンダー上の年齢)とは異なり、
体の老化の進行度を反映する指標として注目されています。
エピジェネティック・クロックの仕組み
• DNAは、遺伝情報を保持するだけでなく、化学的な修飾(エピジェネティックな変化)を受けることがあります。
• DNAメチル化 とは、DNAの特定の部位(CpG部位)にメチル基(-CH₃)が付加される現象で、遺伝子の発現を調節する役割を持ちます。
• 年齢とともに、特定のCpG部位におけるDNAメチル化パターンが変化し、これを解析することで 「エピジェネティック年齢」 を推定できます。