Director's blog
院長日記

免疫細胞とミトコンドリア①

武本 重毅

カテゴリー: 

免疫細胞におけるミトコンドリアは、単なるエネルギー供給源(ATP産生)にとどまらず、

免疫応答の制御者としても極めて重要な役割を果たしています。

T細胞、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞など、多くの免疫細胞において、

ミトコンドリアは代謝の切り替え、サイトカイン産生、活性化・分化・記憶の形成に関与しています。

 

ミトコンドリアの主な機能と免疫への関与
 機能               免疫との関係
ATP産生(好気呼吸)        活性化したT細胞やマクロファージではエネルギー需要が増加し、ATP産生が重要になる
ROS産生(活性酸素)        適度なROSは病原体の排除やシグナル伝達を促進。ただし過剰なROSは炎症や細胞死を引き起こす
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の放出   細胞傷害や感染時、mtDNAが細胞質に放出されると、STING経路やTLR9などを介して自然免疫を活性化
ミトコンドリア動態(分裂・融合)     免疫細胞の活性化・分化・生存に深く関与。例えば、記憶T細胞では融合が優位で持続的なエネルギー供給を維持
代謝経路の制御          好気性解糖 vs 酸化的リン酸化:炎症性マクロファージでは解糖系が優位、抗炎症性ではミトコンドリア呼吸が活発化

 

代表的な免疫細胞における例

 T細胞
• 活性化初期では解糖系が主、記憶T細胞ではミトコンドリア呼吸が支配的。
• ミトコンドリアの健康状態はT細胞の持続的な機能と寿命に直結。

 マクロファージ
M1型(炎症性)では解糖系亢進ROS産生↑
M2型(抗炎症性)ではミトコンドリア呼吸活性が高く、酸化的リン酸化が重要。

樹状細胞
• 活性化に伴いミトコンドリアROSが増加し、抗原提示能力やサイトカイン産生を強化。

 

このように、免疫細胞のミトコンドリアは、

エネルギー産生に加えて炎症制御・活性化・免疫記憶の形成にまで深く関与しています。

特にマクロファージやT細胞では、

代謝の再構成(reprogramming)とROSの生成が免疫応答の決定因となり、

その動態や健康状態が免疫機能を左右します。

したがって、ミトコンドリアは免疫の「代謝センサー」として機能し、治療ターゲットとしても注目されています。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。