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院長日記

免疫細胞とミトコンドリア④

武本 重毅

がん細胞の新しい生存戦略が判明しました

~免疫細胞を乗っ取り、エネルギーを奪って生き延びる~

 

がんと免疫の関係

私たちの体には「免疫」という防御システムがあり、毎日生まれるがん細胞を監視して排除しています。

なかでもT細胞と呼ばれる免疫細胞は、警察官のようにがん細胞を見つけ出し攻撃してくれる大切な存在です。

 

がんの「ずる賢い戦略」

岡山大学の研究チームが、驚くべき事実を明らかにしました。
なんとがん細胞は、T細胞を「乗っ取る」のです。

T細胞の中には「ミトコンドリア」という小さなエネルギー工場があります。ここが正常に働いていると、T細胞は力いっぱいがんを攻撃できます。

しかし、がん細胞はT細胞に異常な遺伝子の働きを押しつけ、ミトコンドリアを弱らせてしまいます。するとT細胞はエネルギー切れになり、がんを攻撃できなくなるのです。

 

なぜ大切な発見か?

  • 最近注目されている「免疫療法(オプジーボなど)」は、T細胞を元気にしてがんを攻撃させる治療法です。
  • ところが患者さんの半分以上で効果が出ないことが課題でした。
  • 今回の研究で、その原因のひとつが「T細胞のミトコンドリア異常」だとわかりました。

つまり、この仕組みを逆に利用して、T細胞のエネルギー工場を守る・回復させる治療を開発できれば、免疫療法の効果がぐんと高まる可能性があります。

 

わかりやすいイメージ

  • 元気なT細胞:🔋フル充電 → がん細胞をしっかり攻撃
  • 乗っ取られたT細胞:🔋電池切れ → がんを見逃してしまう

がんは「免疫の電池切れ」を狙って生き延びている、と考えるとわかりやすいかもしれません。

 

まとめ

  • がん細胞は、免疫細胞のエネルギー源を壊して攻撃力を奪うという驚きの戦略を使っています。
  • この発見は、「なぜ免疫療法が効かない人がいるのか」を説明する重要なカギになります。
  • これからは「免疫細胞のミトコンドリアを守る治療」が、がん治療の新しい方向になるかもしれません。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。