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院長日記

ミトコンドリアと金属 - 生命の進化を支える小さな力

武本 重毅

カテゴリー: 

桜井弘『生命にとって金属とはなにか』からの抜粋を整理

 

金属なくして生命は生まれなかった

「鉄やカルシウムは大事」とはよく聞きますが、私たちの体内にはマグネシウム、亜鉛、銅、マンガン、モリブデンといったさまざまな金属元素も存在しています。体の総量からすると1%にも満たない“微量”ですが、じつは生命に欠かせない大仕事をしています。多すぎても少なすぎても体調を崩してしまうのは、その役割が精密にバランスを取っているからです。

 

ミトコンドリアは「金属の職場」

体の中で金属が活躍している場所のひとつが、細胞のエネルギー工場「ミトコンドリア」です。ミトコンドリアは1つの細胞の中に数百個もあり、食べ物から取り入れた栄養を燃料にしてエネルギーをつくります。さらにカルシウムの調整や免疫にも関わる、まさに生命の中枢です。

 

エネルギーの秘密はATPとマグネシウム

私たちの体を動かす直接のエネルギー源は「ATP(アデノシン三リン酸)」という分子です。ATPは“使い捨て電池”のように、リン酸の結合が切れるときにエネルギーを放出します。このとき必要になるのがマグネシウム。ATPはマグネシウムと結びつくことで安定し、効率よくエネルギーを供給できるのです。

 

鉄や銅も大活躍する電子伝達系

ATPを大量に生み出すために、ミトコンドリアの膜の中では「電子伝達系」という仕組みが働いています。ここでは鉄を含むタンパク質や、銅イオンがチームを組んで電子を受け渡し、最終的に酸素へとつなぎます。まるで精密な工場のベルトコンベアのように、金属たちが見事な連携を見せているのです。

 

原始の海から続く生命の証

これらの金属利用の仕組みは、太古の海に溶け込んでいた微量元素を利用するところから始まりました。つまり、ミトコンドリアで働く金属たちの姿は、生命がどのように進化してきたかを今に伝える“生きた証拠”でもあります。

 

まとめ
金属は体の中にほんのわずかしか存在しませんが、生命を維持するために欠かせない役割を担っています。ミトコンドリアと金属の関わりを知ることは、健康や老化の仕組みを理解する大切なカギになるのです。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。